■見ててやるから


「俺には俺の生き様があんだよ!」


風呂場の中に自分の声が響く。
浴槽のお湯を腹立ち紛れに叩いたが、当然たいした感触はなく、少し外に溢れたぐらいだった。


(…ちくしょう。好き勝手言いやがって、バカ姉貴。)


いくら悪態をついてみても、相手の言う事は悔しいけれど正論だった。


それは今に限ったことじゃない。いつもバカがつく程に何事も真っ直ぐで頑固で無器用な姉貴。

運動神経は良い方じゃなかったけど、ソフト部のキャプテンをつとめるまでになる程、誰よりも努力をしてきたことは身内の俺には嫌でもわかっている。

姉貴は結果はどうあれ、全力を出さずに諦める半端な奴が許せないんだ。

そして、そんな姉貴があそこまで認めるあのひと。弱小チームのピッチャー・茂野吾郎。

野球が上手い人やセンスがある人なら、今までリトルやシニアで数えきれないくらいに見てきた。でも、あの人には他にはない何かがあるように感じたんだ。

姉貴の根本にあるものは、あのひとに影響されたものなんじゃないのだろうか。


それを思うと何故だか俺は「負けたくない」と強く思った。

その気持ちは姉貴に対するものなのか、それともあの先輩に対するものなのか、それは自分でもわからない。

風呂からあがった俺はそのまま二階の部屋へ向かう。ドアに手をかけ、開口一番こう叫んだ。


「やってやるよ!見てろ、ブス!」


突然の俺の宣言に部屋の主は目を丸くしたが、すぐにこう答えた。



「…ああ、見ててやるよ。」



姉貴はニッと笑顔を見せて、当然かのようにこう言った。


「お前なら、絶対にできるから言ったんだよ。あたしの自慢の弟なんだからな。」


本人の目の前で、照れもせずに言い切る姉貴。



(…何だ、その恥ずかしい台詞。よくそんな事言えるよな…)


俺は呆れ、そのまま何も答えずに姉貴に背を向け部屋を後にした。



…でも、きっと。


これだから、俺は姉貴にかなわないのかもしれない。






37巻での清水姉弟のイメージ。
お風呂場で弟を叱咤する姉が男前でした。



清水薫で6題「見ててやるから」【配布元・NO GAME】


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -