■ロストマン


気がつくと、僕は見たこともない場所にいた。


(ここはどこだろう…。)


暗くて、冷たくて、ひとりぼっちだった。
迷子になったような心細さで、あたりをさ迷いながら歩く。


(誰か、いないのか…?)


すると突然、鋭い声が響いてくる。




―――お前は、誰からも愛されてないんだからな――――




一番暗い場所から聞こえる、体を凍えさせる程に冷たい声色。
ああ。また、父さんの声がする。いつもの悪夢だ。

大好きなおじいちゃん、おばあちゃん。
どうしてだろう。あんなにも優しく、あんなにも愛してくれているのに。
それでも僕にはどうしても埋まらない心の溝がある。
幼い子供の様に、今すぐに泣き出して、叫びたい衝動が沸き上がった。

僕を助けて。僕を救って。どうか僕を必要として。



(誰か、僕を…)









――佐藤先輩。



今にも崩れ落ちそうだった僕の心に、どこか聞き覚えのある優しい声が響く。



あたし、先輩が好きです―――



か細いけど、でもとても暖かい声。
恥ずかしそうに微笑む女の子が一瞬見えた気がした。
闇の中でただひとつ、僕を照らす柔らかく小さな光がともる。



(ああ…そうだ。僕には君がいたんだ。)



うわべだけを上手く取り繕いながら過ごし、近づいてくる人達を傷つけることしかできなかったあの頃の僕を、君は好きだと言ってくれた。
それが、僕にとってどれだけ嬉しかっただろう。
どれだけ、力になっただろう。



(僕は、ひとりぼっちじゃない。)



それに気づけたのは君のお陰で、だから僕は戦えるんだ。
に出会えてよかった。きっとまた、会いにいくから…待ってて欲しい。


いつか必ず、君を迎えに行くから。







60巻を読んで“誰か寿君を幸せにしてあげてくれ”という気持ちになって書きました。

寿綾もっと見たかったなーと思います。


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