■cream soda 「あっ本田!あたしのエビフライ食べたでしょ!?」 「…あのなー。おとなしく食えねえのかよ、本田も清水も。ガキじゃねえんだから…」 「じゃあ、お前のから揚げもらうぞ、沢村。」 「あああああっ!テメーこら、本田返せっ!!」 「…沢村君が一番声大きいよ…」 教室の片隅で吾郎と薫、そして小森や沢村を含めた元三船リトルの4人組は昼食を取りながら休み時間を騒がしく過ごしていた。 クラスや部活が違う4人がこうしてたまに一緒にご飯を食べる様になったのは元々は薫の提案だった。 いろいろ紆余曲折はあったものの、今や吾郎とのわだかまりも解消されてリトルリーグ時代と遜色ないほどに仲も修復されていた。 今は沢村がこの前あったサッカーの試合での武勇伝を語っているかと思えば、次はお互いの部活の様子、はたまたこの前のテストの結果がどうだったとか、ふざけて他愛もないような話をしながらも楽しそうにしている。 また4人一緒に過ごせる何でもない時間も良いものだと全員が感じているのだった。 「こんにちは清水さん。今って時間あるかな?」 その輪の中にひとり、声をかけてくる男がいた。 目当ての人物へと真っ直ぐに近づくと白い歯を見せて爽やかな笑顔を向ける。 見覚えのない男で名前もわからないが、背が高く体格も良い姿から「何かのスポーツマン風のヤツ」というような印象を吾郎は持った。 「えーと、今は…」 「話があるんだ。ここじゃなんだからさ、ちょっと外までいいでしょ?」 「…わかった。」 はたから見れば有無を言わせない少し強引な呼びかけにも見えたが、結局その男に呼ばれるまま薫は教室から出ていった。 何故か薫が一瞬チラッと困ったような視線をこちらに寄こしたように感じたのは、吾郎の気のせいだったのだろうか。 二人の姿が消えると、それを後方で見守っていた薫の友人らしき女子達が黄色い声をあげながら騒いでいるのが見える。 「…いったい何だ、ありゃ。」 教室に残された吾郎は、隣にいる小森と沢村に今の自分の率直な気持ちを告げた。 沢村は深い息を吐き出し頭をかきながら、さも説明が面倒だという態度で言葉を発した。 「見てわかんだろーが…。清水がまた、どっかの男に呼び出されてんだよ。」 それを聞いてもまだ気づかないようで、頭に疑問符が浮かんだ顔をしている鈍い吾郎に今度は呆れたように小森が答えた。 「あのね…本田君。清水さんて、結構もてるんだよ?」 「ハァ?んなわけねーだろ。ひとをグーで殴る女だぞ。グーで。」 「いやいや…、清水さんがそんなことするの本田君にだけだし。」 「信じねえのは本田の勝手だけどな。うちのサッカー部にも狙ってる奴らいるんだぜ?」 「へぇー…そりゃまたモノ好きな…」 「あいつ見た目はまあいい方だし、ソフト部キャプテンだから結構目立つしな。口は悪いけど、黙ってりゃわかんねーじゃん。」 理由を聞いても、薫が異性に人気があるということに吾郎はまったくピンとこない。 ただなんとなくむかつくような面白くないような、そんなモヤモヤとした気持ちだけがじわじわ湧いてくるだけだ。 明らかに少し動揺しているらしい吾郎を面白がって、沢村は更に煽るようにからかった。 「お。さすがに本田としても、少しくらい気になりますかぁー?」 「バカ、何でだよ。悪趣味な野郎が多いもんだな、って思っただけだっつーの!」 いつもなら流すような沢村の軽口に今日の吾郎はついついムキになってしまった。 もちろんそれは相手の思うツボだ。 「へぇー。ふぅーん。そぉーなんですかぁー。」 「何なんだよ、さっきからそのニヤついたツラは…」 「まあまあ、本田君も沢村君もそのへんで。」 苦笑いの小森が二人の間に割ってなだめたところに薫が教室に帰ってきたようで、そのまま女子達の質問攻めにあっているのが見える。 「薫ちゃん、どうだったー?」 「バスケ部のキャプテンでしょ?さっきのあのひとって!」 「ねえねえ、何て言われたの!?」 他人の恋路に色めく芸能レポーターさながらに女の子たちは浮足立っているようだ。 その渦中の人物は続く質問攻めにどう答えたものかとうろたえるしかなかった。 「…え、えーっと…いやその『付き合って欲しい』って言われて…」 さらにきゃあきゃあと歓声が上がり、その中のひとりが核心の質問をズバリ投げかけた。 「それで!?OKしたの!?」 「いーや。断ったよ。」 事も無げに薫は答えた。 期待が外れるほどのアッサリとした反応に女の子たちはしぼんだような声を出す。 「ええーまた?今度こそ、薫ちゃんのタイプの男の子かなって思ってたんだけどなぁ。」 「…うーん。悪いけど、何だか軽そうな感じで、好みじゃないよ。」 「ほー、お前にもいっちょまえに好みがあったとはねぇ?」 気づかないうちに自分の背後に来ていた人物の声に薫は驚いて振り返る。 「ほっ、本田っ!?」 「ホレ、聞かせろよ清水。貴重なモノ好きをふってまで待ってる理想の王子様像ってのを。」 にやにやとした表情で明らかに面白がってからかう調子からはデリカシーのカケラも感じられない。 自分の気も知らないでそんな軽口をたたく目の前の人物が薫は心底憎らしくなった。 「うっせー、あっち行け!」 「おー、怖ぇ怖ぇ。また殴られたんじゃたまんねーからな。」 そんなやりとり言い合いを始めた2人に薫の友人の1人が首をかしげて率直な疑問を口にする。 「もしかして薫ちゃんって…、茂野君と付き合ってるの?」 直球すぎる質問に動きが止まる2人。 不覚にも赤くなってしまった清水より先に口を開いたのは吾郎の方だった。 「誰がこんなんと付き合うかよ!選ぶ権利くらいあるぜ。」 「あたしこそ何で、こんな脳ミソまで筋肉みたいなヤツと付き合わなきゃなんねーんだよ。バカがうつる!」 「あァ!?何だとコラ、やんのか、テメェ。」 「あーら、ごめんね。本当のこと言っちゃったかしら〜?」 目の前でケンカを始めた2人の間で、女の子たちは困ったように顔を見合わせていた。 遠巻きにその一部始終を見ていた小森と沢村はお互いに苦笑い交じりの溜め息をつく。 「…あの2人…いつ気づくんだろうねぇ…」 「…ホント、見てるこっちが恥ずかしいぜ…」 あの調子が続くのでは、大事なことを自覚するまでいったいあとどれくらいかかるのか。 それはもう神のみぞ知ることであろう。 見守る幼馴染みの心配をよそに、当の本人達は痴話ゲンカとしか言えない抗争を未だに騒がしく続けているのだった。 薫は中学では普通にモテたんだろうなーと。 高校・大学と女子ばっかのとこ選んだのは、共学での体験がいろいろ面倒だったからじゃないのかなと思いました。 お約束ですが、やっぱりケンカップルがツボ。ずっと仲良くケンカしてて下さいな。 |