■テイタム・オニール それは俺が聖秀に入学して、しばらくたった頃の話。 もともと特に目的もなしに入った高校だった。 強いて言えば、女の子が多いから楽しそうだ、というくらいの理由だったかもしれない。 毎日の授業が終わると、生徒はみんなそれぞれに騒がしく教室から飛び出していく。 気がつくと、最後まで教室に残っているのはいつも俺で、妙に重く感じる体を起こして鞄を片手にゆっくりと校舎を出ていく。 少ない男子が入る様な部活なんてほとんどないウチの校庭は、女子の運動部でいっぱいだった。 「あ、藤井君じゃん、いま帰るのー?」 「バイバーイ。また明日ねー。」 俺に気付いた女の子達が声をかけてくる。 「おおー、今度デートしてくれよなー。」 女の子たちに軽く返事を返す。これでもまったくモテないワケではなく、それなりに毎日を楽しく過ごしてはいるつもりだった。 それでも放課後になるといつも同じ気持ちが胸にまとわりつく、この晴れないモヤモヤした気分の正体はなんなんだろう。 (あー…ゲーセンでも、行っかなぁ…) そんなことをぼんやりと思いながら、俺が校門に向かおうとしたときのことだ。 “ カキィン! ” 俺のよどんだ想いを打ち砕くかのような、気持ちのいい金属音が響く。 その瞬間に目の前を白いボールが大きく綺麗な放物線を描いていった。 女子ソフトボール部のホームランだ。 見上げると同時に、あまりにも青くて眩しい空が目に飛込んできて、今まで灰色に思えていたような景色が急に鮮やかに色づく。空をまじまじと見上げたことなんて、どれくらい振りだったろう。いつもこんなに綺麗だったんだろうか? 俺は思わずみとれてしまっていた。 (…何やってんだ、俺は。ガラじゃねーよな。) 我に返ると何となく気恥ずかしくなって苦笑いをしながら校庭の方に目を移す。 どうやらその特大ホームランを打った人物は、ふんわりとしたショートカットの女の子だった。その娘は意志の強そうな瞳で力強くダイヤモンドを力いっぱい一周する。最後のホームベースを踏んだ瞬間、一転して溢れるような笑顔をみせた。 心から嬉しそうに、楽しそうに。 俺はその一瞬の表情に心奪われた。 あの子はソフトボールが好きなんだ、と誰が見てもわかるくらいに打ち込むものをもっている迷いのない真っ直ぐな姿は、やりたいことも見つからずに毎日をくすぶってる俺とはあまりにも違う。 それは本当に羨ましくて、眩しくて…。 気づけば俺はその娘ばかりを見つめていた。 (ひとめ惚れって、本当にあるんだなぁ…) もっと彼女を知りたい。彼女と話してみたい。 この高校に来て良かった、…なんてことを俺は思っていた。 聖秀編はあくまで藤井→薫→吾郎→野球という図式ですね(ここ重要) たぶん藤井は根が熱血体育会系なんではないかと思います。自分では気付かずだらだらと過ごしてたときに、ソフトにひたすら打ち込む薫に惚れて、そのあとにやってくる吾郎を知って結局は叶わない片想いだと知るのであろうことを考えると可哀想な気もしますけど…立ち直りも早そうだし良いか(笑) タイトルはスピッツの曲から。歌詞がなんとなく藤井っぽい気がします。 |