■BLUE BACK ここはアメリカ。日本代表選手達が宿泊するホテルである。 トレーニングやミーティングも終了し、部屋へ帰ろうと廊下を歩く寿也のもとに吾郎が何か紙袋を抱えながらやってきた。 「なぁ、寿。イイモン見せてやろうか。」 「何?吾郎君。楽しそうにして。」 「ふふふふ。見て驚くなよー……じゃ――ん♪」 目の前に数冊の雑誌を広げる吾郎。もちろんそれは普通の雑誌ではない。 寿也にもそれが何であるかはわかっているのだが、あえて思いきり冷静な声で尋ねてみる。 「……何コレ。」 「何って見りゃわかんだろ?本場アメリカのエロ本。どーだ、凄ぇだろ。金髪だぜ、金髪。」 嬉しそうに言う吾郎に頭が痛くなった寿也は、深い溜め息と同時に心の底から呆れた声を出すしかなかった。 「…あのねぇ、吾郎君。僕らわざわざアメリカまで何しに来てると思ってるの…?日本代表の選手なんだからさ…」 「別にいーだろ?カっタイ事言うなよ。息抜きだよ、息抜き。男なんだから。あ、お前も欲しいか?」 「いらない。」 即答の拒否である。 自分の思考から言えば、普通の男なら喜ぶであろうという品物を一蹴され自分だけが不謹慎扱いされているように感じられ、ふてくされた吾郎はついつい相手への口が悪くなる。 「…んだよ。昔っから面白くねえ奴だよなあ、お前は!ムッツリなくせに、すましてんじゃねえよ。」 その言葉に、ピクリと寿也の眉が動いた。 「誰がムッツリだよ、誰が。だいたい、清水さんもすぐ近くまで応援に来てくれてるのに、そんなの持ってるのがバレたらどうするの。」 「へっ、別に怖くねーよ。あんなもん。」 「…へぇ。ずいぶんと余裕あるんだね、吾郎君は?」 「まぁなー。なにしろあいつ、俺にべた惚れだしよ。」 その嬉しそうに得意気な吾郎の様子に反して、それをただただ冷ややかな目で見つめる寿也。 しかし突然、吾郎の背後の何かを見て驚きの表情をすると寿也は焦ったような声色でこう言った。 「…あれっ!こんなところに、どうしたの清水さん?」 「なっ…!」 突然に耳に入ってきた自分の彼女の名前にビクッとした吾郎はとっさに持っていた雑誌を床にぶちまけた。それにアタフタとあわてるも、しかしまずはそれには構わず凄い風圧で後ろを振り返る。 「し、清水っ!?いや、あの…これは、その…!」 振り向きざまに急いで弁解を始める吾郎だったが、その目線の先には誰もいない廊下が広がっているだけで、自分の彼女どころか誰の姿も見当たらなかった。 「あ、れ…?」 吾郎が間の抜けたような声を出したその瞬間、背後から吹き出すような笑い声が聞こえてきた。 「…ぷっ…あはははははっ!」 「…寿。てめぇ…」 「い、今の吾郎君の顔…!ホントに、余裕のある彼氏さんだよねぇ?」 お腹をかかえて大笑いしながら寿也は満足そうな声で言った。 (……やられた。こいつはそういや、こういう奴なんだった…。) 寿也のその悪戯は、きっとさきほどのムッツリ発言のお返しなのだろうと吾郎は感じて憮然とするしかなかった。 「いやあ、誰かさんが案外尻にしかれるタイプなんだって、よくわかったよ。」 「るせーな!無駄に演技なんかしやがって。」 「我等が日本代表クローザーの新たな弱点を見つけちゃったな。キャッチャーとしてはデータにいれておかなきゃなんないよね?」 そんな風にからかわれ続け居心地悪くなった吾郎は寿也から顔をそむけて、床に落ちた雑誌を拾う為に屈みこんだ。 すると、ふたたび寿也が何かを見つけた様な声を上げた。 「あ…」 「…あのなぁ、バカにしてんのか寿。二度もひっかかるかよ。」 「いや、違うよ。吾郎君の後ろ…」 寿也のその神妙な小声の響きと指先を信じておそるおそる振り返るとそこにいたのは、日本代表のコーチであり、吾郎の父親でもある茂野英毅であった。 「吾郎と佐藤君じゃないか。どうしたんだ、こんなとこで二人とも。」 「…ゲ。」 気まずそうにしている人物が手にしている物に、声をかけた方が気づいた表情をした。 吾郎は屈んだままでかたまり、寿也は“あーあ”というようなジェスチャーをしたその瞬間、ホテル中に大きな声が響きわたるのだった。 「吾郎ーっ!まったくお前は、何しにここに来てると思ってんだ!!だいたいお前はだな…!」 それはコーチの苦言というよりも突然落ちてきたオヤジのカミナリ。 (………今日は厄日だ………) 結局、それからずっと今までのたまりにたまった父親のお説教を聞かねばならないはめになった息子は、ひたすらため息をかみ殺してじっと耐えるだけで精一杯であった。 生涯の親友、兼ライバルとしての二人の関係が大好きです。 そして寿君は黒い方が断然好み。やられたらきっちり三倍返しくらいはしてきそうな様子が書きたくて、こんなんなっちゃいました。薫も出せばよかったかな? どうでも良いですが、吾郎って下ネタと絡ませやすい気がしますね。 |