■約束だから


“一旗上げるまで帰って来ちゃダメだからな!”

そう言って送り出してくれたあいつ。あの強気な一言が、アメリカで戦う自分の芯にあったような気がする。

(…ずいぶんと会ってねえな…)

空港で最後に見た幼馴染みの笑顔が胸に浮かんできて、帰国の荷物をまとめ終えた吾郎はひとつのボールを手にし、もう片方にペンを握った。

「茂野くーん?いるー?明日空港に…」

吾郎の所属するチームのオーナー代行であるアリスがノックの音とともに入ってくる。

「ああ、サインボール書いてたのね。」
「ん、まーな。日本にいるときに、ちょっと…約束したんだよ。」
「約束?」
「ああ。俺がプロになったら…一番最初にサインしてやる、ってな。」

そのボールを見つめてどこか優しげに答える吾郎の様子に、アリスは興味津々な笑みを浮かべながら口を開いた。

「…それって、女の子でしょう?」
「へ?…まあ、一応は、そうだけど…。なんでわかんだよ?」
「ふふふっ。その子ってば、ずいぶんと大事な可愛い子みたいね〜。茂野君もやるじゃない、日本にいる恋人?」
「あのな、勘違いすんな。単なる幼馴染みだよ、男みてーなヤツだし。」
「ふーん、そう?…ま、いいわ。明日は車で空港まで送ってってあげるから、ちゃんと準備しておいてね。」

そう伝えながら出ていくアリスに礼を伝え、吾郎は手の中にあるボールに目を移した。渡米前、理想に描いていた姿に程遠いと思う現在の自分。文句なしに胸を張れるような輝かしい結果はまだまだ出せていないけれど…。

「…これで、許してもらえっかな。」

吾郎は自分のサインボールを軽く放り投げ、キャッチしながら懐かしく想う。

(あいつは、日本でどうしてんだろう。)

大学に入っても相変わらずソフトボール三昧で、毎日泥だらけになってるのかもしれない…等と想像した吾郎はフッと笑みをもらすのだった。再会を待ち望み、胸を高鳴らせている気持ちを自分でも未だ気づかないままに。






両想いまでのカウントダウン。

ゴロカオ10題・「約束だから」【配布元・NO GAME】


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