●追憶のライラック


「オーイ茂野、パス!」

サンダースはボールよりもひとまわり大きな赤い塊を放り投げた。振り向きながらではあったが、吾郎は流石にうまくキャッチする。

「…何だ、このリンゴ?」
「いや、女房が送ってきたんだよ。ひとりじゃ食いきれねえから、お前にもやるよ。」

美味しそうにつやつやと光る丸い実を見つめ、半ば独り言の様に吾郎は呟いた。

「…あーヤベ。何か無性にカレーが、食いたくなってきた…」
「は?カレー?」
「いや…前にな、リンゴを丸ごと煮たカレー食ったんだよ。」
「丸ごと?日本ではそんなカレーを食うもんなのか?」
「食わねーよ、普通。そんな妙なもん作るの、あいつだけだし。………まぁ、でも意外とうまいんだぜ。」
「“あいつ”?」

その問いには答えずに、吾郎は手の中のリンゴに目を移した。

「…今度帰った時にでも…また、食わせてもらうかな…」

何か楽しみを思いついたように微笑む吾郎を見て、サンダースは首をかしげているのだった。






珍しくちょっぴりホームシックな彼氏です。

食いしんぼっぽい吾郎だから、好きな食べ物が食べれないのは寂しくなるだろうなと思って、好物なカレーを出してみました。お袋の味が恋しいのではなく、彼女の手料理ってところは、私の願望です。







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