●ショートケーキのサンバ


「美味し〜い!」

目の前のケーキを幸せそうにつつく薫。
彼女はふと向かい側に座る相手の皿に目をやった。

「アレ?イチゴ食べないんなら貰っちゃうぞ、本田っ。」

赤い実にヒョイと手を伸ばそうとした瞬間、吾郎はそれを必死に阻止する。

「だーっ、コラ清水!お前、ヒトのモンまで奪うんじゃねぇ!」
「えー、だって端に避けてたじゃん。いらないのかと思って。」
「大事に取っといたんだよ!勝手に決めんな!」
「何?もしかして好きなものは最後にゆっくり食べるタイプ?アハハ、子供だな〜。」
「るせっ」

そこに隣から冷静な声がする。

「…なるほど、ね…」

この一連のやり取りを見ていた大河は、何かを悟った様に呟いた。

「「何が“なるほど”なんだよ?」」

同時のタイミング、まったく同じ台詞で尋ねてくる吾郎と薫に向かって、いつもの生意気な顔を向ける。

「…大事にしすぎて、その隙に誰かに取られたら意味ないですよ、先輩。」

ポカンとしている吾郎の顔を尻目に大河はその部屋を出た。
そして、フッと少し笑う。

(…ま、ごゆっくりどーぞ、おふたりさん。)

このカップルの一向に進展しない理由が、何となくわかった気がしていたのだった。





何であそこまで吾郎は据え膳に手を出さないのか…とモヤモヤ考えた結果、私の行き着いた結論だったりします。(もちろん、イチゴ=薫ってことで)
「とっとと食っちまえー!」という気もしないでもないですが、古風な彼は大事にしてるんですねぇ。

似た者同士な吾薫のボケに呆れつつのツッコミ大河、みたいな図がとても好きです。もっとこの三人組を書きたいなぁ…。






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