■大人のくすり 「本田、あれあれ。凄い面白いんだって。」 目的のものを見つけ、指をさしながら小走りになる薫。今日のデートには吾郎と一緒に映画館に来ていた。薫が観たいと言っていた映画タイトルの華やかな看板を見上げた吾郎は、そこに書かれた紹介文に目をやった。 “全米中が涙した感動のラブストーリー” “恋人達の決定版” “一番愛する人と観て欲しい映画” “見終った後、かならずあなたは大事な人に会いたくなる” (……マジかよ……) このような数々の宣伝文句を見た吾郎は、完全にひいていた。顔をしかめて薫にむかってため息のような声を出す。 「まさか…こんなん観る気じゃねーだろーな。」 「え?そうだけど?」 「…勘弁しろよ…どういうセンスしてんだ、お前は。」 いかにもコテコテの恋愛映画というものが吾郎の性分には恥ずかしすぎて耐えられそうにないのである。他人の恋路の、しかも作り物の話を見て、いったい何がそんなに楽しいのかさっぱりわからない。そんな意見をこぼす相手に、薫はどこか迫力のある笑顔を向けた。 「何か文句でも?遅刻したのはどこのどなたでしたっけ?」 不満の声をあげる吾郎に、拒否を許さないような調子で薫は対応する。 「……喜んで観させて頂きます、清水さん……」 「うん、よろしい!じゃあ行くか本田。もう始まっちゃうよ。」 しぶしぶ顔の吾郎は、笑顔の薫に連れられるままに映画館のなかにと消えていった。 ■to be continued ⇒ 同じ話ですがこちらから分岐です。お好きな方でお読み下さい。 ・薫視視点はコチラから ・吾郎視点コチラから ×
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