■君は僕のもの


「……遅い……。」

いつもの公園で薫はひとり立ちつくしていた。今日はデートなのだが待ち合わせの時刻はとっくに過ぎている。吾郎はまたしても遅刻なのであった。彼氏としても、スポーツマンとしても、時間にルーズというのはいかがなものかと思うのだが…それは超マイペースな幼馴染みの昔からの変わらぬところで薫はなかば諦めている。時間を見ると、予定を30分程過ぎているのを確認した。

(今度から待ち合わせ時間は、あいつにはわざと早めに伝えないとな…)

そんなことを考えているところへ、ようやく本人が小走りでやって来た。

「おお。わりーわりー、清水。待ったか?」
「…あのな!わかってんなら、もっとすまなさそうな顔しろよ!」
「いやー実は、来る途中に外人に道を聞かれるわ、迷子の子供を見つけるわ、行き倒れの老人に出会っちまうわ、宇宙人に連れ去らわれるわで…」
「もっとマシな言い訳ねーのかよ!…もういいっ。」

いつもの調子で軽口な吾郎は反省の色が薄すぎて薫は抗議の声をあげた。明らかにふざけたとってつけた言い訳によりいっそう不機嫌になってひとりでスタスタと歩きだしている。

「あ?待てよ、オイっ。」

吾郎はその後に続いて大きな声を出しながらついてくる。

「オーイ清水ー。しーみーずー。清水さーん。なぁ、遅刻したのは悪かったってー。」

薫は背後から聞こえてくる大きな声を無視し、無言で足早に歩いていく。だが、歩幅の違いで相手はすぐに追い付いてきた。

「待てよ。」

そして、薫の手を捕まえて大きな自分の掌で包みこんだ。

「…っ!…」
「ケンカよそうぜ?せっかくの休みなんだからよ。」

それがいったい誰のせいだと思っているのか。
悪びれもせずに言う吾郎を憎らしく思う薫であったが、惚れた弱みはどこまでも根深いようで顔が赤くなるのを自分では止められなかった。

「は、離せよっ…。」

本人は睨んでいるつもりであるのだろうが、上目づかいの赤くなった薫の表情はすねて照れた顔そのものでその反応に吾郎は思わず笑った。

「やだね。自力で振り払ってみろよ?」
「…なっ…」

どうやら吾郎にからかわれているのがわかった薫は握られた手を離そうと、ムキになって腕をブンブンと振り回した。だが相手はプロの野球選手、しかもピッチャーである彼の強い腕の力からは当然逃れることができるはずがない。

「ホレ、どうした清水。いつもの怪力は。」

楽しそうに茶化す吾郎にキッとした目線を向ける薫は口で反論するしかない。

「誰が怪力だ!お前に力でかなうわけねーだろ、ずるいっ。」
「おーおー。ずるくて結構。」

まだ怒ったままの様な薫の手を優しく包み込むように握りしめながら吾郎は語りかける。

「遅刻しちまったかわりに…今日はお前の好きなとこに行ってやるから、機嫌直せよ。な?」

ふてくされた薫を覗きこむように笑顔をみせた。

(……ずるい……。)

清水はもう一度、さっきと同じことを思った。その表情に薫は結局すべて許してしまう。自分は吾郎のその顔にはいつも勝てないのを思い知るのであった。悔しくも心地よい敗北感に包まれ、そうしてふたりが仲良く手を繋ぎながら歩き始めたところへ、見慣れた顔がふたりの前に現れた。

「…あれ?吾郎君と清水さんじゃない。」

寿也であった。何故にこんなときにかぎって知った顔に出くわすのか。吾郎は自分の間の悪さを呪った。

「おお、寿。」
「あ、デート中?もしかして僕、お楽しみのとこをお邪魔しちゃったかな、吾郎君?」

笑顔の寿也の視線はしっかりつながれたふたりの手にそそがれている。言われて気づいた吾郎は、慌てて反射的に手を離した。

「いや、べ、別に…」
「またまた。素直じゃないんだから。」
「そんなんじゃねーよ!」

今はまだ付き合ってることにまだ慣れていないという照れ臭さ、知っている顔にからかわれた気恥ずかしさに、上手く対処できず意味もなくごまかす吾郎。一方、薫はさっきあんなにしっかりと握られた手を瞬時に離されたことが少なからずショックであった。

「…本田のバカっ!」

言い捨てて、またしても身を翻して逃げていく。

「ああ?…って、待てコラ清水っ!」

流石はソフト部女子と言うべきか。あまりにも早くかけ出した薫を、急いで追いかけていく吾郎はまるで追いかけっこをする子供の様なふたりの男女。その様子を見た寿也は思わず呟いた。

「……変なカップル……。」

その場に残された寿也はふたりについて、あまりにも率直な感想を溢していたのだった。





キリ番・4500“ラブラブなデート中の吾薫をからかう誰か”という可愛らしいリクエストを頂きました。

惚れた弱みというのはホントもうどうしようもないですね。


こちらはリクエストを下さった花紫様へ。ありがとうございました!





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