■家族の風景


受験日も近付いてきたこの時期、俺は夜遅くまで起きて真面目に勉強をしていた。
まったく、受験生てのはホントに楽じゃない、早く終わって気楽にゲームでもやりながら夜更かししたいなんて思う。
煮詰まってきた証拠なのかと感じ、気分転換にコーヒーでも飲みながら休憩でもしようと俺が台所に向かうと、電気がつけっぱなしなのに気づいて足を止めた。
溢れる灯りと、何やら絶えずバタバタ聞こえる音。
家族はとっくに寝たと思っていたこんな時間に誰かが起きてるのだろうか。

(母さんかな?)

近づいて中を覗くとそこにいたのは、こんな夜中にエプロン姿の姉貴だった。
付け加えると、台所中をこれでもかというくらいに荒らしまくっている。

「何やってんだよ、夜中にガチャガチャ…。あーあーこんなに散らかして…」

背後から声をかけると、姉貴はそれまで俺の気配に気づかなかったようで驚いて大声をあげた。

「た、大河っ…!?いや…これは、その、ちょっと…」

なにやら口ごもりながら誤魔化そうとしている。
様々なものが散乱したテーブルの上に目をやると、お菓子の料理本が広げられていて、それですべて察しがついた。

「バレンタインチョコ!?」

俺が本の見出しを読みあげると姉貴は、現場を見られた恥ずかしさからか苦笑いしながら口を開いた。

「アハハ…えーと…お、お前にもやるからな?頭をつかう受験生には甘いものが必要だし…」
「いーよ。姉貴のチョコ期待するほど俺、落ちぶれてねーし。」
「あぁ!?なんだよ、ホントに可愛くねー弟だなぁ…」

姉貴はぷいと顔を背けてブツブツ言いながら、抱えているボウルを懸命にかきまわす作業を再開した。
その姿を見ながらふと思う。
自分が気づいた頃にはリトルリーグに入っていて、その後もずっとソフトボール一筋の姉貴はこんなイベントに参加するようなタイプではなかったはずだ。
確か、去年までのバレンタインはまったく何もしていなかった。
というより、むしろたくさん貰ってくるようなタイプである。
今年はどういう風の吹きまわしなんだろう。

「つーかさ、手作りってことは本命がいんだろ?男日照りの姉貴にも、やっと彼氏ができたとか?」

俺は自然に浮かんだ疑問を口にする。
この姉に彼氏がいたところなんて自分が生まれてこのかた15年間一切見たことがない。

「なっ…か、彼氏なんかじゃねーよ!ただの、友達だよ、友達っ!」

こっちが驚くくらいの過剰反応で、真っ赤になってうろたえている。

(…………バカ?)

なにかを否定してるつもりか知らねーけど、逆にわかりやす過ぎる。きっと誰かに片思いしているのは確実だ。

「姉貴の高校だったら男少ねーし………あー、もしかしてあの野球部のうるせえピッチャー?あいつに惚れてんの?」
「えっ…!?そっ…それは…」

図星とばかりにますます赤くなる。
こんな顔をするしおらしい姉貴を生まれて初めて見たような気がする。
面白くなってさらに続けた。

「なんだよ、あんなのに切ない片想いかよー。ダッセーなぁ、姉貴。」
「…るさいっ!いーから子供は早く寝ろっ!」

ニヤニヤしながらからかう俺に怒った姉貴がそばにある調理器具をひっつかんだ。

「…やべ。」

その獲物を見て目を丸くした。
なんとその手の中にあるのは特大の麺棒で、もしそんなもんを投げつけられてはたまらない。
身の危険を感じた俺は素早く台所から逃げ出した。

(危ねー危ねー…そもそもあの狂暴さをどうにかしねーと、彼氏なんて一生できねーだろ…)

そんな事を考えながらも姉貴がチョコを贈る相手というのに俺は興味がわいてきた。
普段は女らしさのカケラも見せないような自分の姉が、あんな顔をするくらい好きになった男だ。
いったいどんな奴なんだろう。

(たしか…茂野、吾郎…っていったよな…)

いつしか俺は、春から始まるはずの新しい野球生活に想いをはせていた。
しかしその為にはまず、目の前の受験を乗り越えなければならないんだ。

「…さーて、もうひと頑張りすっかな。」


コーヒーは飲めなかったが、受験のやる気を取り戻した俺はそのまま勉強を再開するべく自分の部屋に戻るのだった。







一応はバレンタインネタなのに、吾郎を出さないという暴挙に出ました。薫・高2、大河・中3の頃ですね。

弟は姉の片想い相手にいつ気づいたんだろう?という妄想混じりのお話。大河は勘もいいし、わかりやすい薫嬢の様子から、もっと早い時期から気付いてるかもしんないですけどね。とりあえずは高校まで吾郎と大河は面識ないからなぁ。

とにかく書いてて楽しくて楽しくてしょうがなかった。口は悪いんだけど、何だかんだでお互い想いな薫&大河が私は大好きです!清水姉弟バンザーイ♪


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