■僕らはヒーロー


「清水さん怒らせるの本田君の専売特許でしょ!」


自分で言った言葉に改めて気づかされる。

(…昔からずっと、そうだった。)

いつも元気で明るい清水さんが落ち込むとき、それはいつも必ず本田君が原因なんだ。
ずっと近くで見てきた僕には、どれだけ清水さんが本田君を好きなのかも知っている。

僕は、本田君が何も言わず転校したときを思い出していた。




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あの頃の清水さんは、すべてを忘れるようにがむしゃらに、毎日遅くまで練習に打ち込んで、みるみるうちにプレーがうまくなっていった。
それはあっという間に沢村君や先輩たちを追い越すくらいに上達して。そんな彼女は普段みんなの前ではいつもと変わらないように見せていたけど、ある日僕が一度だけ本田君に手紙を書こうか、という話を持ちかけたときに、全力で拒否反応を示した。

“あいつの話は二度としないで!”

今にも泣き出しそうに叫ぶ清水さんのあんな辛そうな顔を見たのは初めてで、驚いた僕はそれ以上何も言えなかった。

リトルリーグを卒業して中学校でソフトボールを始めてからの清水さんはいつしか“野球をやってるやつにろくな人間がいない”なんて言うようになっていた。

「え…じゃあ、僕も?」

野球部に入ったばかりの僕が顔をしかめて尋ねると彼女は笑ってこう答えた。

「アハハ、どうだろうね?最近ウチの弟も野球やりはじめたんだけど…何だかずいぶん生意気になっちゃったしな。」

一見、冗談のようにイタズラっぽく笑っていたけど、あんなにも野球が好きだった清水さんが頑なに野球を拒否する気持ちは日に日に強まっていくようで、側で見ていると少し痛々しくも感じた。
本田君のことはいつまでも思い出にできない、今でもあまりにも大きな存在なんだと思い知る。

そうして、あのときから何度めかの春が来た。

“4年ぶりだっけか?本田吾郎、ただいま帰ってまいりました!”

そう言って、何も変わらないような口調で本田君が三船に戻ってきてくれたことは僕自身も心から嬉しかったし、清水さんのことでも本当に良かったと思ったんだ。

ふたりは、幼い僕を助けてくれた大好きなヒーローだったから。



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僕はそんなことを思い出しながら清水さんを中学校の屋上に呼び出した。
本田君と別々の学校に行くことになったのを口では相変わらず強がっていても、傷ついている様子がすぐにわかって、僕は伝えた。

“ソフトが好きで、ソフトを一生懸命やってる君が一番好きなんだ。”

これは誰でもない、何より僕の気持ちだった。でも、彼女を笑顔にできるひとはたったひとりだけ。
僕の言葉じゃ届かないと知っている。

(だから、君が笑ってくれるなら…)

「…本田君は、そう言ってたよ。」

そう伝えると清水さんはその真っ直ぐで綺麗な瞳に少し涙を浮かべ、次の瞬間に満面の笑顔になる。
彼女が弱音を見せなくなってからずいぶんと時間がたったけど、なんだか久しぶりに本当の清水さんを見れた気がした。

(ありがとうな、小森。)

そんな言葉が聞こえるようだった。
彼女は何も言わなかったけれど、もしかしたら気づいていたのかもしれない。
伝えた想いが、本当は僕のものだということに。
それでも心からの笑顔をくれた。
僕はもう、それだけで充分だと思う。

僕らはこれから、それぞれの道を行く。
一緒にころげ回ってはしゃいでいた無邪気な子供時代には戻れない。
でも、それを哀しいことだと思わないで。

たとえ離れ離れになって、側にいれなくなったとしても、あの日の空の色をきっとみんな忘れない。
青い光の下にいるかぎり、僕らはいつまでもつながっていけるんだ。

つらいときには思い出して。


そこにはきっと、あの日の僕らと今の素敵な君がいる。








吾薫←小森です。(てか、吾←薫←小かな。)ずーっと考えていた捏造話でした。
とにかく、原作24巻は青春ど真ん中ストライクでお気に入り。中学卒業前の切なさ炸裂で大好きなエピソードが満載でよく読み返します。

薫と一緒に過ごした時間だけなら吾郎よりも小森のが長いから4年間いろいろそばで見てきたんだろうなと。屋上であの言葉を伝えたときに小森は薫を諦めたんじゃないのかなと思いました。

優しくて強くて自分より相手を優先する小森が大好きです。
いやー幸せになってほしいよ、こもりん!




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