■Thank You My Girl


「沢村って、ソフト部の清水さんと仲良いんだろ。紹介してくんねえ?」

中学に入ってしばらくしてからだろうか。
サッカー部の同級生達がこんなことを次々と言ってくるようになっていた。
これで何度目だかわからないその申し出に俺は、率直な意見を相手へと伝える。

「あー、清水ねぇ……悪いこと言わねえからやめとけって。あいつ、中身は色気まったくねえガキだし。」

これは誰に対しての意地悪でも何でもなく、曲がりなりにも小四からのつきあいである俺の偽りのない清水の評価だ。
リトルリーグを卒業してからの清水は、その情熱のまま色恋なんかそっちのけでソフトボール命になってるし、負けず嫌いなとこが増して、俺が身長追い越したときなんて理不尽なくらいに悔しがってたような奴だ。
男に対してやたら対抗心燃やしてくるあの性分はなんなんだ、男嫌いの一種なんだろうか?

「ええーケチだな。そんなこと言って、沢村も清水さん、狙ってんじゃねえのか?」

悔し紛れにそんな台詞を返される。
紹介してもらえないことがよほど残念だったのだろう。
モノ好きなヤツもけっこういるもんだな、とため息を吐く。

「…まあ、見た目はまあまあだと思うけどな。別にそんなんじゃねえよ。」

とりあえず俺は同級生にそう返事をしておいた。
そのまま部室を出てから教室に向かう途中の廊下でぼんやりと考える。
正直なとこ、清水をそういう対象として見たことはあったのだろうか?
思いめぐらせてみると想像の中でくらいなら………1回くらいなら、あるかもしれないけど。

(…いやまあ、そこら辺は健全な男子の証拠ってことで許せ、うん。すまん。)

そんなことを考えていた俺の後頭部が突然誰かに軽くパシッと軽くはたかれた。
痛さに頭を押さえて振り返るとショートカットの髪が見えた。

「オッス、沢村。何にやけてんだよ、気持ちわりーな。」
「うわっ、し、しみずっ!?」
「欲求不満だからってスカートめくりはみっともないからもうやめとけよ、エロイジメッ子。」

(…みろよ、この口の悪さとデリカシーのなさを。)

ひとの黒歴史持ち出しやがって、俺のファンの子達に聞かれてモテなくなったらどうするんだと思った俺はそのまま反撃に出た。
幼馴染みとして弱みを知ってるのはこっちだって同じだ。

「うるせーな。そっちこそ、どうなんだよ。4年ぶりに帰ってきた愛しの本田とは進展あったのか?」

こんな風に聞けばきっと顔を真っ赤にして怒るだろうことを知っていてわざとからかうような口調で尋ねた。

「バ、バカ!本田なんかと、どうもこうもあってたまるかっ!」

うん、期待通りのリアクションをありがとうございます。
こういう攻撃にはてんで弱い清水は声を荒げながら動揺していて、こんな単純なところは可愛いと言えばある意味そうかもしれないと思い直す。

「ハイハイ、わかったからデカイ声だすな。結局、お前ら仲直りしたのかよ?小森だってずっと気にしてたんだからな。」
「うん。この前小森に聞いて、野球部の練習試合見に行った。」
「あー、そういえば本田も結局、野球部入ったらしいな。」
「我慢できなかったんだって。まあアイツらしいっていうか…あっそうそう、それで西中の野球部との試合でさ―――」

野球部の試合の様子を話す清水を俺は適当に相づちをうちながら見ていた。
俺もまだ野球をやっていた頃、ドルフィンズの皆で毎日泥だらけになっていたあの頃と変わらず、清水はガキのまんまの表情をしてると思った。
そしてマウンドの上の本田を語るこいつは、あの頃からいつだって自分のことのように嬉しそうなんだ。

(本田にはこんな顔、するんだな…)

いつもは男勝りな幼なじみが見せるその笑顔に不覚にもドキリとした。
清水がどんなに自分では否定しようが誰が見たって、その柔らかな表情は好きな男のことを想う女の子のものだとわかりやすいくらいに態度に出ている。
もしもこれに気づかない鈍感な奴がいたとしたら、きっとそれはどこかの野球バカぐらいのもんだろう。

でも―――。

(鈍感なのは、あいつだけじゃないかもしれねえな。)

ふと俺の中に浮かんだのは、寂しさにも似た安堵感でついつい苦笑いがこぼれた。
不思議に思った清水が首を傾げてくる。

「沢村?」
「…何でもねえよ。で、清水の大好きな本田の試合が何だって?」

俺の台詞にまたもや照れからみるみる赤くなりこちらを睨む清水の顔が目の前にある。
でも、今のはからかう為に言ったわけじゃない。
自分でも今まで気づかなかった、ましてや口に出せるわけもない清水へのほのかな想いを急いで打ち消したかったからだった。
俺はいつものように軽くふざけながら笑ってごまかした。
そうすれば、俺らはこれからもずっと変わらない“友達”としていられるんだから。




―――そうだ、消えろ、消えてしまえばいい。

少しだけ、ほんの少しだけど……本田のことを羨ましいと思ってしまった、こんな気持ちなんて。










青臭ーい話が書きたかったのだけど、沢村が不憫に…。ウチでは薫嬢が吾郎以外を好きにはなることは基本的にありえないんですが、吾郎がもし帰ってこなかったら、どうなっていたのかとかちょっと考えてしまいますね。

とりあえず私は吾郎薫小森沢村のドルフィンズ4人組が好きです。ええそれはもう、大好きです。みんな幸せになれー!





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