何もかもが、言わば一人遊びの延長に過ぎない。
何れも此れも猫が暇を殺す為に其の爪で鼠を穿つような退屈凌ぎに外ならない。

空を千切りたい征服者が、月が満ちるのを待つ間に手近に在った花の一輪を手折ったというだけの小咄。

白蘭は笑う。花を愛でる行為に理由が必要か、と。
ハルは呟く。


「花びらを毟ったり、茎を折ったりする事は、可愛がってるとは言いませんよ」
「ふぅん?可愛がるイコール優しくする、なんて誰が決めたの?親は子を愛するからこそ叱るんだし、恋人達は想い合うからこそ諍いを起こしたりもするのに。それって偏見なんじゃないかなぁ」


そう云うあなたが口から吐き出しているのは屁理屈です、其の一文を舌の裏側に仕舞い込む。

折り曲げられて破り取られてひしゃげられてゆく花の一つ一つを、ハルは可哀相だと思った。本来、青々とした細い茎は真っ直ぐで在った筈なのに。
人間の指が二本だけあれば花は何とも容易く攀れてしまう。刺を抱いた薔薇は花弁を乱され、美しく綻ぶガーベラは茎を裂かれる。

日課のような頻度で繰り返される色鮮やかな嗜虐ショーに対して、ハルはこれまでただの一度も制止の声を寄越さなかった。諦念と達観と侘しさを込めて黒い瞳を瞬かせるばかりで眉も動きはしなかった。
鼻先を刺激する百合の香には、白い花びらにちらりと一瞥を寄越すだけで終わった。


「どうして、あなたはそうなんですか」


其れはハルから白蘭に宛てた、全てに対する問いだった。

例えば白蘭が、本人曰く花を愛でる理由。紅茶に砂糖もガムシロップも入れない理由。上機嫌に菓子を頬張る時には大抵其のしなやかな身体から仄かに血臭が香る理由。ハルの事を初対面の時点から呼び捨てにした理由。笑う時には決まって瞳を細める理由。

男性の色香を露骨に滲ませた、薄く形の良い唇が弧を描く。
白蘭が笑う。


「僕が僕で在る事に何か解説が必要かい?僕が今こうして居る事に敢えて理由や原因起因を見出したいなら、退屈だからとしか答えようが無いよ。だから、ねえ、飽きさせないでねハル。君の質問は割と面白いからさ」


白蘭の長い脚の先にある白い靴の傍に、剥がされて棄てられた花弁が幾つも幾つも幾つも転がっている。
可愛らしい色と愛らしい形の数々をちりばめた手作りの絨毯がいかに歪であるかと言う点についてはお互いに触れていない。

ハルは黙る。飼われる身である鳥がやたらと騒がしくすると、翼の骨を折られるからだ。
次に、ハルはゆっくりと桃色の唇を開く。遊び道具である鳥があまりに物静かだと、存在価値が無いと判断されるからだ。





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title⇒虫喰い
(反逆さまに提出)



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