小説 | ナノ




君に贈るダリア17
スタジオの一角、息抜きに暖かいお茶を啜った。
ため息にも似た吐息が自然と漏れた。

忙しい。

寝るまもなく編曲とチェックと音取りと、どんどん進められる作業に休みがない。

せっかく、幸男くんとおつき合いできるというのに、こんな私で彼を満たせるのかしら。
だけど彼のいたわりのメールや日々の他愛ないやり取りに彼の優しさを感じる、その度に私の不安は無くなるのだ。

「さちっちー」
「黄瀬君?どうしてここに?」
「今日、仕事無かったッスからさちっちに会いたくて来ちゃったッス」

黄瀬君は私の横に来て壁に寄りかかった。

「黄瀬君、ありがとね!ちゃんとお礼言ってなかったから」
「笠松先輩の事ッスか?相変わらず律儀ッスねぇー」
「んで、今日はどうしたの?何にもなしに来ないわよね?」
「ッスね」

黄瀬君はへらっと笑って壁から離れてスケジュール帳をひらいた。

「どーしてこんなに忙しいのかってのはマネージャーから聞いたッス、んでこっから無理を承知でお願いッス」
「お願い?」
「来月、二月ッスね、さちっちのオフ日があればその日俺と行って欲しい所があるんッス…どこかってのは内緒ッスけど」

黄瀬君と同じように手帳を開いて黄瀬君と予定会わせをした。
その日は二月初旬の土曜日に決まった。

「俺がさちっちの最寄りの駅まで迎えに行くッスから、時間とか決まったらまた連絡するッス」
「うん、お出かけ、楽しみにしてるね!」
「んじゃ!お邪魔しました!!頑張ってねさちっち!!」

黄瀬君は手をブンブン振って帰って行った、内緒の予定はなんなのだろう。
久しぶりに黄瀬君に会えて少し気分が晴れて、今日のもう一頑張りに気合いを入れて私はスタジオブースに入っていくのだった。



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