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長い嘘の片思い
「好きだ、理由は沢山ある、長くなるから省くが俺と付き合ってくれないか」

惚れかもしれないが両思いを確信して目の前の白石に告白をした、したはずだった。
俺を見る目は恋慕のそれだったし正直そうなるよう最善を尽くし先日小耳に挟んだ俺への評価、このタイミングしかないと告白した。
白石が一瞬、花開くように喜びの目色をしたのは見逃さなかった、だけど次の瞬間には目を泳がせ眉間に皺を寄せ酷くつらそうな顔をして、制服のブラウスを胸元でこれでもかと握りしめギュッと目を閉じて絞り出すような声で。

フられた。

白石は逃げるようにその場を立ち去り、俺は人気のない校舎裏の片隅で茫然と立ち尽くした。

翌日、俺に落ち度はなく、しかしフられた理由を納得させられてしまった。
白石の親友に告白されたのだ、彼女の事はよく知っている、白石の隣にいつも居る彼女は女子バスケ部の部員だからだ、彼女と親友の白石は一緒に帰るために白石自身に部活のない日も体育館隅っこでよく練習を見ていたので彼女伝いに白石の事を知ったと言っても過言ではない。

そうか、白石は親友との友情を取ったわけだ、内気で優しくて人の評価に敏感な白石の事だ自分が好きな相手に告白されようとも親友もそいつを好きなら自分は諦める、そうして親友に嫌われないようにする。
あぁ、ここで俺が彼女をフれば気の強い彼女の事だ何故なのか理由を尋ねるだろう、いや…そうでなくてもこの先彼女と付き合わず白石との交流を続ければ俺が白石の事を好きだと言う事はどこかでバレるだろう、そうすれば白石の守った友情に罅を入れかねない。

不本意でも、それでも白石が好きだから、だから俺は。

「つきあおうか」

抑揚のない自分でも驚くほど優しい声で白石の親友と付き合う事になった。




白石のどこが好きか理由なんかは沢山あるが多分、一番は俺の顔を可愛いと形容するその心に惚れたのだろう。
身長のせいもあるがもともと切れ長の目のせいで目つきが悪く怖いだの何だのと色々言われてきた。
額が出ている方が頭が回るのに前髪を垂らしているのは正直その辺に在るのだろうと最近知った、だから同じく目つきの悪い連中や目つきなんかよりよっぽど悪い性格した男子バスケ部の奴のお陰でバスケ部では額を出すようになった。
そんな俺を(目があったことがあるからそうは言うが実際は白石の親友を)体育館で見ていた白石はそれでも臆することなどなかった。
現にゴールから外れたボールを取りにいった先に居た白石は作り物でも何でもない笑顔で俺にボールを差し出し「何時もお疲れ様です」そう言った。

同い年なのに親友以外には敬語を使う白石の淑やかさに。
瀬戸くんお早う御座いますと言う鈴のような白石の声に。
おでこを出している方が可愛いと思いますと言った白石の感性に。
嫌われたくないから自分を抑える白石の脆さに。

華奢で小さなその全てを守ってやりたいと思うのは必然的だったと今でもそう思うのだ。



結論から言えば高校を卒業して十年たった今でも白石を忘れられないで居た。
白石を片時も忘れず思い続ける俺は少しばかり滑稽だと自らを嘲る。
とっくに白石の親友とは別れた、そもそも本気でない女に対してまで優しくできるほど出来た人間ではなかったし白石を忘れたわけではない俺はかなり彼女に対して冷たかった事だろう。
日本に居ては白石の影を追ってしまう気がして大学を中退して外国の大学へ進んだ。
特に苦労もなく医学部へ入り向こうで医師免許も取得した、そうして十年それでもやはり忘れられなかった白石への思いはぶつけようもなくぐるぐると体中を巡るのだ。

そんな時だ同窓会の知らせが来たのは、自分が海外に居ることなど数人の知り合いにしか言っていない。
文章は丁寧な綺麗な英語で書かれており、それはもう皮肉たっぷりに俺の体を気遣う言葉が並び、そして書いている時、送り主はさぞかし愉快に顔をニヤつかせて最後の一文をしたためたのだろう。

花宮め何が白石もお前が行くと言ったら二つ返事で来ると言っていた、だ。
相変わらず人の気持ちを弄ぶのがお好きなようだ俺はまだ行くなんて言ってない。

行くけどね。




「ふはっ遠路はるばるご苦労なこったな健太郎、感謝しろよ?白石の連絡先知ってる奴、殆どいねぇモンだから大変だったんだぜ?」
「そうか、悪かったな」

白石の親友が来ていない、そもそも出席名簿に名前すらなかった(会ううのが気まずいので確認した)花宮の差し金だろうか、だから白石の連絡先になかなかたどり着けなかった訳だ。
だがどうせ大変とか言いながらさして苦労などしてないのだろう、じゃなきゃこんなに機嫌がいい訳ない。

「海外生活はどうだよ?充実してたか?」
「相変わらずの性格だな…そう思うならあの手紙の内容にならないだろう」
「どうだろうな、お前も相変わらず察してくれるあたり余分な事まで言わなくて助かるよ」

助かる等感謝の気持ちも含まれない声色で言う花宮と俺は同窓会パーティー会場のホール外で話をしていた、ガヤガヤした所は苦手な俺と一度入ってしまえば未婚の女にもみくちゃにされる花宮でここに落ち着いた。
ホールの扉から離れた死角、誰も通らない、余程花宮は他の人間に会いたくないらしい何しに来たんだ全く、まぁ俺をからかいに来たんだな。

「瀬戸くん、花宮くん」
「やぁ久しぶり」
「お久しぶりです花宮くん、お元気でしたか?」

不意に男二人のむさ苦しい空間に綺麗な音が響いた、変わらず綺麗な声だ。
しかし変わった白石がそこに居た。

可愛らしい少女だった白石はあどけなさも少し残しながらしかし確実にあの頃より美しく綺麗になった。
しかしなぜ、ここに。そう思ったが横で口の端を釣り上げる花宮を見て、元からここへ呼び出していたのだろう事を推測した。

「んじゃ健太郎、俺は帰るからしっかりやれよ、じゃあね白石さん」
「花宮くん帰られるのですか?」
「仕事がまだ有るんだ、大丈夫健太郎がエスコートしてくれるさ本場の英国紳士様がね」

花宮に感謝しかけた俺は馬鹿だこういう男だ花宮は。
パーティー会場に一度も足を踏み入れず帰るやつの背中は愉快そうに震えていた。

「瀬戸くん、遠かったでしょう?お体端大丈夫ですか?」
「あぁ、平気だ白石こそ遅れてきたが何かあったのか?」
「あ、どうしても病院の仕事が片付かなくて」
「病院?病院で働いているのか?」
「はい看護師さんですよー」

ふわり、あの頃と変わらず優しく笑う白石、そうか看護師なら天職だろう。
嫌われる事を嫌い、人を観察し知り尽くす、そして持ち前の優しさと検診的な性格もある白石だ、さぞ素晴らしい看護師になった事だろう。

「瀬戸くんはお医者さんですよね」
「花宮から聞いたのか?」
「いいえ…あ、違っ…」

白石が頬を染めて俯く。
まさか、まさか、そんな嬉しいことがあるだろうか!知っていたんだ!ずっと!知ろうとしていてくれたのか!

「まさか看護師というのは」
「す、ストーカーみたいで気持ち悪いですよね…」
「気持ち悪いなんて事があるわけ無いだろう、俺だってずっと白石の事を好きで忘れられなかったんだ」
「瀬戸くん…」
「俺はあの時フられたと思っていたが今、そうじゃなかった事がわかった白石、本当の答えを教えてくれないか」
「私…でも、そんな…瀬戸くんに好かれる権利なんかっ」

二人きり、校舎裏とホール外の死角。
場所は違えどあの時と同じ遠くの方で楽しそうな声を聞きながらお互い緊張して。

「好きだ、理由は沢山ある、長くなるから省くが俺と付き合ってくれないか」
「瀬戸くん!?」

白石が驚いたような恥ずかしいような顔で俺を見上げた、その瞳に罪悪感と言った類の物は見られない。
成長したのだ、自分に正直になる、ただひたすら波風立てないようにするばかりの生き方は辞めたのだろう。

「そうだなあの時のままでは不満だろうか、さちこ」
「瀬戸…くん」
「さちこ、お前を幸せにしたい、一生側にいて守りたいそれが俺の願いだ、叶えてくれないか、俺の願いをさちこ、好きだ結婚を前提に俺とつきあって欲しい」
「せ、とくん…」

ふるふると瞳を潤ませて小さな手を俺のスーツのジャケットに這わせてきゅっと握って。

「いいのかな、こんな嬉しいこと。瀬戸くん、瀬戸くん大好きです、ずっと最初に好きって言ってくれたときスッゴく嬉しかったです私も大好きですって言いたかったの…弱くてごめんなさい、こんな私でも良いですか、瀬戸くん大好きです」
「お前以外は嫌だったから忘れられなくてここまで来たんだ良いも何も俺にはさちこだけだ」
「瀬戸くん、瀬戸くんっ」

小さい体も抱きしめて胸の中で俺を呼ぶ愛おしい温もりにやっとこれで守ってやれる、と満たされる心にぐるぐる巡るナニかは無くなっていた。




「健太郎さん!」
「さちこ、あわててどうした」
「健太郎さんカッコイいです」
「いきなりなんの話し、」
「昔、可愛いといってしまったのは失言でした、健太郎さんカッコイいです」
「誰の入れ知恵だ、花宮か」

あいつはさちこをからかいその上で俺までからかおうとするからたちが悪い。
そろそろさちこに釘を刺しておいた方がいいだろう。

「え、花宮くん嘘ついたんですか?瀬戸が可愛いと言われたの衝撃だったらしいぞ!と言っていたので、よく考えたら男性に可愛いはないですよねって思って…」
「気にしないで良い衝撃というのは嬉しくて衝撃を受けたんだ、それと花宮の言うことは真に受けない事、大体可愛いというのは愛おしいという意味だと俺は思っている」

ぱぁっと花が咲いたように笑ったさちこ。

「健太郎さん可愛いですっ」
「うん、さちこも可愛いよ」
「はいっ!」



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