小説 | ナノ




君に贈るダリア14
「母さん、お茶…」
「あら、今更?幸くんったらおもてなしがなってないんだからー」

一階にお茶とお菓子を取りに来た、母さんが何かご機嫌で小言を言ってるが内容があまり頭に入ってこない。
未だにさちさんに触れられていた部分が熱い、まるでそこにも心臓があるようだった。

好きだって言われて今まで感じたことのない程心が苦しかった、握られるような苦しみじゃなくて一杯に膨らまされてそれで苦しい。
落ち着いた今、寂しいと思っている、ただ苦しいのではないと麻薬のようなソレをもう一回欲しいと思ってしまっている。
だけど、どうにも苦しくて何故だか己が惨めでそれで飲み物を持ってくると言って部屋を出た。

俺は逃げ出した。

さちさんは確かに好きだと言っていた、冗談や冷やかしではなくて本気で言ってくれていたのもよくわかった、だから余計に苦しかった。
だって俺のこの苦しみは確かに恋なのだから、認めてしまった今何を迷って苦しむ必要があるのかと自分でも思う、だけどその結論は出ていたりする。
俺にあの人を幸せにしてあげることが出来るのか?年上で稼いでいてその彼氏が大学生で好きなことをしているなんて世間は許さないのではないか。

「早く持って行きなさいよー何してるの」

母さんの一声でお盆を持ったまま立ち往生していたのがわかった、どんな顔して戻ればいいのかわからなくて返事が出来なかった。

「幸くん、お母さんねこれだけずっとアナタを見てるから何を考えてるかなんとなく分かるのね、だけど間違ってたらゴメンナサイ、それでも聞いてねお節介」

母さんは居間のソファーに座って俺に背中を向けたまま話している、俺の顔を見たのはさっきお茶を取りに居間に入った時だけ。

「幸くん他人なんてね一生かけてもすべてを分かり合うことなんて出来ないの、幸くんは息子だから別よ?お母さんもお父さんのことは未だにわからないことだらけ、それでも一緒に居たいって思うのは分かり合えるほんの少しが愛おしいのね。どんなに長く付き合おうと全てがわからない、未来が見えないなら、今見ている見えてる部分が愛おしいなら…それでイイと思うのね」
「母さん」
「お母さんどうせならあの子みたいないい子がいいわぁ」
「んなっ」

足が自然と動いて居間の扉を開けた、後ろから「行ってらっしゃい」そう聞こえて背中を押されてしまった。
全部ちゃんとさちさんに言おう、不安もこの想い全部だそれで嫌ったりなんてあの人はしない。
部屋の扉を開ける、さちさんは相変わらず床にペタリと座っていて体制はそのままに俺の方を向いた。

「お帰り」

涙の跡の残る顔をいっぱい笑顔にして遅くなった俺を迎え入れてくれた、遅かった事のお咎めはないようだ。
お茶とお菓子の乗ったお盆を床において俺もさちさんの前にペタリと座った。

「あの、俺……俺もさちさんの事好きです。だけど不安で、多分すっげー迷惑かけると思うんです!大学行くのもバスケしたくて行くし、勿論勉強もしますけど…そしたら俺、好きなことばっかりしてさちさんに負担ばっかりかけると思うんです…だけど、それでも俺一緒に居たいなって思っちゃってて」
「笠松君、私どうしよう」
「え?って泣いて……ごめんなさいっ俺やっぱ」
「違うの、嬉しくて嬉しくて…もう、涙腺弱くなったわー」

恥ずかしくて下を向いていたのにさちさんが切なそうな声を出すから顔を上げれば、さちさんは笑いながらポロポロ涙をこぼしてて、俺はもう一度その手を握った。

「その…俺とつ、つき…付き合ってくれますかっ!!」
「私でいいのかな」
「え、いや…寧ろ、え?」
「笠松君勘違いしてるよ、好きなことしてるのは私も一緒だよ、それが仕事になっただけ、だから笠松君にも好きなこと一生懸命やって欲しいな、笠松君のバスケしてる姿ちゃんと見たいもの」
「俺、ちゃんと彼氏できるかわかんないですよ?黄瀬みたいにエスコートとか出来ないし」
「私だってちゃんと彼女できるかわからないわよ?もしかして芸能人でそういうの豊富だとか思ってる?黄瀬君に聞いてごらん?さちっち恋愛下手ッスよ!とか言うから」
「似てますね…黄瀬真似、無性にシバきたくなりました」
「ふふっそれに黄瀬君のエスコートなんて見たことあるの?あの子も素直だから姉みたいに慕ってる私に対してそんなものあった事ないわよ」

二人で笑いあった、心地よくて、繋いだ手から沢山の感情が伝わってくる心がまた満たされて張り詰めた。

「宜しくね幸男さん」
「なっ!?」
「ふふっ顔が真っ赤だよ?なんで名前も知ってるんだろうって思ってる?」
「いえ…聞ける人いますからね…そんな呼ばれ方したことないんで驚いたんです」
「私もちゃんと名前でよんでいいのよ?本名はね」
「白石さちこ……さん」
「あれ、よく知ってるね黄瀬君?」
「はい…それと卒業生、ですよね学校に卒業生名簿あってそれで」

さちさんが「なーんだ」なんて悪戯を失敗した子供のように笑った。

「無理強いはしないけどさちこって呼んでくれると凄く嬉しいな」
「善処します」
「敬語も禁止っ」
「善処しまっ……する」

こうして俺たちの恋人生活が始まったのだった。



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