小説 | ナノ




その手が優しくて
「さちこー帰んないのー?」
「ちょっと委員会の書き物してから帰る」
「まってよーか?」
「いやー悪いしすぐ終わんないからいいよー」

放課後、いつも一緒に帰るクラスの友達が席から立ち上がらない私に声をかけてくれた、待っててもらってもいいんだけど書き物は終わりそうもない。
学級委員などなるものではないな…そう思う、文化祭間近でやらなきゃイケナイ事が沢山だ、それは委員会会議に参加した私と副委員長しか出来ない事だからさっきの友人に手伝ってもらうわけにはいかない。
副委員長はどうしたって?副委員長はサボリですよ、さっき自分の友達と帰りましたよーっと。

「んじゃ帰るけど、あんま根詰めんなよー」
「おー」

友人は後ろ髪引かれながら帰って行った、優しい奴だ。
さてさてやりますか、と企画書にペンを走らせるウチのクラスの第一希望はお化け屋敷…っと。

使う物や予算の算出、一人でプリントと睨めっこする事一時間ちょっと、一度先生に見てもらおうと席を立って職員室に向かう。
これが終わればすぐにでも帰れる。

しかしそうはうまく行かない、企画書の生徒会借り物の暗幕の数が多すぎると指摘され却下だった、それと予算の使い方にも一言頂いてしまった、押さえすぎたのがよくないらしい。

「おわんなさそうー」
「なにが?」

教室に入るなり独り言を漏らしたつもりだったけど返事が返ってきた。
聞かれてたー恥ずかしい!

「えーっと白石さん」
「そういう君は早川くん」
「なにが終わ(ら)ないの?」
「えっと…文化祭の書類……」

早川くんはTシャツに半ズボンで額には汗をかいていて、教室に忘れ物だろうか手には携帯を持っていた。

「部活?」
「いや…自主練、白石さんひと(り)?」
「うん」
「………」

早川くんは黙ってしまった、シーンとした空気が重い。
しかし気まずくなってる場合ではないので私はそんな早川くんを横目に自分の席に座った。
もう一度プリントと睨めっこを始めた私だったけどいきなり視界に影が落ちた。

「そ(れ)、企画書?」
「っわ!」

早川くんがのぞき込んだことによって影が出来ていたらしかった、早く自主練いけばいいのにー。
早川くんはクラスの人気者で面白いし楽しい人で優しくて元気があって結構可愛い顔してるしモテる、元気が良すぎて告白する子は居ないみたいだけど。
正直私みたいに地味な子は憧れたりする、こんな私にも声をかけてくれる早川くん。

「びっく(り)させてごめん!」
「んーん大丈夫」
「手伝え(る)事ない?」
「無い…かな」
「そっかぁ…じゃあ居る」
「え?」

早川くんは唐突に私の前の席を引き出して座った背もたれに腕を置いて反対向きに座る早川くん。
距離が意外と近くってドキドキしてきた私をよそに早川くんは何をするでもなくじーっと見てきた。

は、恥ずかしいっ

居る、と珍しくラ行を言えた早川くんの声はなんとなくいつもと違って低くって落ち着いているようだった。
プリントを睨みつけ、わざと早川くんを見ないようにしていたら不意に髪の毛が持ち上がって肩を揺らした。

「髪、すっげー綺麗」

いつもの早川くんじゃないっ
私の髪をくるくるしたり、横の髪をスーッと梳いたりそれはもう自由に私の髪を弄る。
正直、集中できないしドキドキで顔真っ赤だし何がなんだかわかんない。

「白石さんって化粧してないね…まつげ長いけど地毛?」
「じ……地毛です」
「へー白石さんって可愛い顔して(る)よね」

にへらっと屈託なく笑う早川くんがそこにいた、可愛いなんて言われて驚いて顔をあげてしまったのだ。

「顔真っ赤だよ?平気?」
「ダイジョウブ……だと思います」
「あ、消しかすー」

早川くんが私の髪の毛にふれるとこを目の前で見てしまった、消しゴムのかすが髪についていたらしい、そりゃあれだけ至近距離にプリントがあればそうもなる。
変なとこ見られるわ早川くんの大きな手が私の髪の毛にふれてるわで顔の赤みはひくところを知らない。

「早川くん、自主練いいの?」
「おー、こっちのが有意義」
「へ?」
「うん、白石さんのそばに居たい」

なんで?
もうドキドキし過ぎて逆に冷静になった私の頭がそう言った。
なんで私のそばにいる方が有意義なんだろう、私の混乱が顔に出てたのか早川くんは笑った。

「白石さんって頭いいのにこういうのダメなんだね」
「へ?」
「おれさ白石さんのこと好きなんだよ、知ってる?」
「しら、ない」
「へへっ」

今度は悪戯っぽく笑う早川くん、さっきから何やら私の表情を伺って楽しんでいる。

「あんね、白石さん頑張りやだか(ら)ほっとけないっていうか守ってあげたいって言うか、本当はこういう時なにか手助けしたいんだけど白石さんひと(り)でやっちゃうか(ら)」
「それは…私にしか出来ない事だから…」

早川くんはすっごい笑顔で頭を撫でてきた。

「うん、だか(ら)白石さんが寂しくないように側に居させて下さい!出来(れ)ばずーっと!!」
「わ…私でいいの?」
「白石さんがいい!!だか(ら)今度か(ら)お(れ)にも手伝わせて!!」
「は、はい」
「後、さちこって呼んでいい?」

こてんっと首を傾げた早川くんはいつもの早川くんでだけど、告白してくれた早川くんはすっごく真剣でかっこよくて。
そのギャップに早くも私はやられてしまいました。

「あ、ちゅーもしたい」
「えっえぇえ」



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