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桐皇に住む恐ろしいアレ
「あ、若松くんおはよ」
「……おはよう御座います……白石先輩……」

朝の登校時間、朝練がないこの日昇降口でバスケ部マネージャーである白石先輩にあった、普段なら返事を返して終わりなのだが俺は完全に顔をひきつらせた。

「なんやー若松ー俺に挨拶は?」
「お…おはよう御座います今吉サン…」

いつもニコニコしている今吉サンだがこの表情は完全に威嚇モードだ、なぜなら。

「あら、若松くん誰に挨拶してるのかしら」
「俺やでさちこー無視せんといてや?」
「やだぁーなんか耳鳴りするわぁー若松くん盛り塩なぁい?」
「今日もさちこはかわえぇのう…つれないとこがたまらんわー」
「やだ…寒気もしてきた若松くんこれはもうお祓いすべきね……マジで物理的に」

白石先輩に相手にされる俺とされない今吉サンの構図が今吉サンにとって宜しくない。

桐皇学園バスケ部に入ってからこんな感じの会話が毎日のように繰り広げられる、白石先輩曰わく一年の時からだと言うから実に三年もの間このやりとりをしているわけだ。

「お…おれ教室行きますね」
「うん、若松くんまた部活でねー」
「今吉サンも…また……」
「またなぁー」

未だに俺を威嚇し続ける今吉サンから逃れるためそそくさと自分の上履きを履いた。

白石先輩はスタイルもよく可愛いし今吉サン以外の人にはとっても優しいし気さく、ねらってる人も多く俺のクラスですらたまに話題にあがる、しかしその話の終わりはいつも決まってある人物のせいで終わる。

妖怪のせいで近づけない。

妖怪というのは勿論今吉サンの事だ、張り付けたような読めない笑顔に人の考えてることをまるで聞いてきたかのように言い当てそれもその人の聞かれたくない事をさらっと暴露し…バスケのプレイでもそれは変わらず、風の噂で「人の嫌がることをさせたら妖怪並」と聞いたこともある。
その妖怪が白石先輩の回りをうろうろするものだから白石先輩は告白されたことがないという、いや端から見たら毎日告白されている……今吉サンに。
口をひらけばほめちぎり、付き合ってくれだの愛してるだのペラペラと…白石先輩は露骨に嫌そうな顔をしているのでそこは妖怪としてのお勤めをしているのか(人間だけどな、今吉サン)真実味がないように俺は思うし、多分白石先輩もちゃかされてると思ってるっぽい。

放課後の部活が始まっても相変わらずエンジン全開の先輩たち二人、諏佐サンは完全に目を合わせないようにしているし最初は驚いていた青峰も今はゲラゲラ笑いながらその光景を見ている、桃井はお陰で青峰が部活に来るのか少し微笑ましそうに見ている、桜井は相変わらずオロオロしてる。

「さちこ朝ぶりやの、なんで昼休み教室おらんかったんや?」
「盛り塩してるんだけど効果無いわね…」
「ワシ寂しくて死んでしまいそうやったわ」
「しね、そして成仏して下さい」
「せや、さちこあかんでー男は狼やからなぁお昼休みのあいつサッカー部やろ?あいつ彼女おんのにさちこに告ったんやなぁ最低やわぁ」
「……まじで妖怪だな」
「ありがとう」

いや、ほめてねーよ!!と突っ込みたくなるほど脈絡なくお礼を述べる今吉サン、白石先輩は諦めて桃井の所へ向かっていった。

「白石先輩とっても羨ましいです」
「ん?なにが?」
「あんな真っ直ぐ好意を向けてもらえるなんて…羨ましいです!」
「桃井さんはいい子ね……あれはね嫌がらせをしているのよ…人の嫌がる事をしたいの、私を茶化して嫌がらせしてるのよ?」
「そーですか?……あ!そっかぁ!白石先輩って今吉さんのこと好きなんですね」
「「「ぶっ!!!」」」

諏佐サンと俺を含めた話を聞いていた部員(青峰は「でかしたさつき」と大笑い、桜井は青ざめていた)が同時に吹いた、今吉サンはその感もシュートを外すことなくリングと向き合っていた、真っ先に反応しそうなものを。
ところが白石先輩の様子がおかしい、こちらからは顔が伺えないのだがちらりと見えている耳が真っ赤だ。

「も、も、も、ももいさん?な…なに言ってるの!?」
「だって、茶化されて嫌だって感じるんですよね?本気でいって欲しいから」
「ち…チガウヨー」

見たこと無いほど取り乱した白石先輩、いつも冷静に今吉サンをあしらってる姿からは想像できない…可愛いな。
動きが堅くなった白石先輩は「アタマヒヤシテクル」といって体育館をでようとした、しかしそれは阻まれた。

「さちこ、ワシは本気やで?誰にもお前を渡したくないしこれから先ずっと一緒にいて欲しいんや、だからそろそろ素直になりーや…私も今吉くんが好きですってな」
「な……みんな居るのになにいって……」
「いやー取り乱すさちこもかわえぇなぁ……さっきさちこが可愛いとか思ったやつ死刑やわー……のぉ若松」
「っひ」

マジで妖怪だこの人…体育館にいるほぼ全員が目をそらせた、桜井なんか泣いてるし。
今吉サンはそんな反応どうでもいいのか目の前の真っ赤な白石先輩の頭を撫でていた。

「な、さちこ?ワシのこと好きやろ?」
「う…」
「好きっていうてや」
「す……」
「おん」
「す…す……」
「まぁなぁ……先に好きになったんさちこの方やしなぁ両思いなんて最初から知ってたんやけどな」
「す…………すっぽん!ばか!妖怪!しね!!」

相変わらず今吉サンは白石先輩で遊んでらっしゃるし遊ばれてるのわかってて構われたい白石先輩はされるがままだし。
もう……末永く爆発しろ。

後日、付き合うことになった白石先輩と今吉サンだがやり取りはほぼ変わらず、変わったことと言えば今吉サンの一言一句に照れる白石先輩と体育館の角に置かれていた盛り塩が無くなったことか。



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