「んー…」 「ん?」 「あれぇ……えーっと」 「………」 「えっ違う!もー……黄瀬君!」 「はーいッス」 今日は事務所で打ち合わせ、それまでの待ち時間に休憩所に行ったらケータイと睨めっこするさちっちを発見した。 なにやら百面相する姿が面白くてつい観賞していればいつの間にかこちらに気づいていたさちっちに呼ばれた、一体なんだろう。 「使い方教えて」 「え?」 「これ、スマホ!」 「うん……うん?」 使い方もなにもそれで電話したりメールしたりしてるじゃないか、今更なんの使い方を教えてほしいのか。 「メールの打ち方教えてほしいの」 「メールしてるじゃないッスか」 「送られてきたメールを読むのはできるんだけど、送り返したことないもん」 「そーいや……」 そうだ、さちっちにメールを送ると返事が必要なときは電話が来るのだった、しかしそれなら今回も電話すればいい。 「電話じゃだめなんッスか?」 「電話…迷惑かなーって」 「え、俺結構電話されてるッスけど…」 「……黄瀬君は受験生じゃないじゃない」 「あ、あぁー」 笠松先輩か!笠松先輩にメールしたいんッスねー、理解した。 つまり笠松先輩が受験勉強で忙しくって電話じゃ手間をとらせるからメールしたいわけだ。 「さちっちー笠松先輩なら電話してもいいッスよ」 「え、なんで」 「大学決まってるッスから」 「もしかして…推薦?」 「あたりー」 「おっけ…電話する」 良いことを聞いた!と悪戯っぽくニヤリとしたさちっち、そそくさとケータイを弄り始めたので一つアドバイスをする事にした。 「メールの打ち方は笠松先輩に教わってください!」 「……そーする……あ、もしもし?」 さちっちが通話を始めたのでこちらもケータイを弄りながら耳を傾ける。 「えっと…遊びに誘おうかなって思ってね…うん…今週の土曜日ならオフなの」 「うん…うん…大丈夫?」 「よかった!それでね笠松くんの家でも良いかな…え!?なに今の音!大丈夫?……おーい…もしもーし」 「あ、よかった大丈夫?え?いいの?じゃあギター聞かせてね?」 「じゃあ土曜日の十三時にあの公園で待ってるから迎えに来てくれる?うん、お願いしまーす…………ふぅ」 俺からはさちっちの声しか聞こえなかったけど、だいたいどんな話かは理解できた、それにしても…さちっちが家にお邪魔したい件が面白すぎる、先輩絶対吃驚してケータイ落としたって。 「土曜日はお家デートッスね」 「家なら幾分か人目に付かないしね」 「楽しみッスね」 「うん、楽しみ……なんか嬉しそうだね」 「嬉しいッスねーさちっちが嬉しそうなんで……いつか誰だかが俺達を兄弟って形容したッスけどホント…いっつも面倒見てくれる優しいおねーちゃんが幸せなとこって弟としては嬉しいもんなんッスよねーなんつって」 「黄瀬君…」 これはホンネ。 さちっちのこと大好きだから、さちっちのそれはきっと恋だから、頑張って欲しいしその頑張りを手伝いたい。 ホントはちょっと嫉妬したりしてる、笠松先輩に、だってさちっち取られちゃうもん。 だから余計にかな。 「幸せになってねさちっち」 「黄瀬君…気が早くない?」 「やっぱッスか?」 少し寂しいのは弟の愛。 絶対、幸せにしてね笠松先輩。 |