小説 | ナノ




ぬくもりが眠るとき
「大きくなったら結婚しようね」

幼い子供の戯れ言、約束は次第に風化してそして忘れられてゆく。
忘れなくても結婚というのはどう言うもので、決まりがあってなんてわかる歳になれば無理だという事をお互いに理解しそして無かったことにする。

初恋、そして今もずっと想い人。

俺の初恋は一つ上の姉だ。



「ただいまー」
「おかえりなさい」
「ねーちゃん今日は野菜炒めー?」
「流石だねー和成、見てないのに…もう少しで出来るから先にお風呂入っちゃいなー」

いやいや…俺じゃなくても野菜炒めくらい匂いでわかるってーの。
そう思って風呂場に行かず荷物をリビングに持ち込む、それをソファーの横に置いた。

「っしょっと」
「和成?」
「手伝うっつーの」
「ふふっありがと」
「っ……うん」

ねーちゃんのくすりと笑う仕草が好きだ、顎を引いて、握った手を口元において、目を細めて笑う。
控え目な仕草にドキリと心臓が躓く。

「じゃあ、そのお皿取って」
「はいよー」
「和成…大きくなったね」
「えー何いきなりーいつもあってるじゃーん」
「大人っぽくなったよ」
「は……え?」

高いところの皿を取っているところでの話題だ、身長の話かと思えば意味深にひそめられた大人っぽいの言葉、コンロの方を向いているねーちゃんの表情は此方からは見えなかった。

だけどわかる、見なくても分かる。
知ってるから、小さい頃から一緒にいて今だって過剰なほど仲のよい俺達だ、お互いのことは手に取るように分かる。

知ってるんだ、ねーちゃんの好きが親愛だって事は。
知ってるんだ、ねーちゃんに好きな人が居ることは。
知ってるんだ、ねーちゃんも俺の気持ちが分かることが。
知ってるんだ……知ってる。

「ねーちゃん…笑って」

そんな顔しないで

「笑ってるよ」
「うん、笑って」

こんな俺を

「笑わないよ」
「うん、ありがとう」

愛してる

「ありがとう」
「……ご飯にしよ」
「そうだね、和成」

ご飯の後は風呂に入って独りの狭い空間に目をつむった。
もう、今日で最後にしようそうしなければきっと先に進めない。
俺も…ねーちゃんも。
優しいねーちゃんは俺がそばにいてほしいと願えばこれから一生ずっと一緒にいてくれる。

それは駄目だから。

勢いよく湯船から上がれば大きな水音が反響する、もうこれで最後にしないと。

風呂から上がればねーちゃんは食器を洗い終わってテレビを見ていた。
俺に気づいてすぐに「さっぱりした?」なんて聞いてきた、両親は帰りの遅い俺を待てずに寝てしまうのにねーちゃんは何時もこの時間までつき合ってくれてた。

「あのさ」
「んー」
「今日だけ一緒に寝ていい?」

ねーちゃんは驚きもせず小さく息を吐いた、そして顎を引いて、握った手を口元において、そして目を細めて。

「いいよ」

そう言った。

久しぶりに入るねーちゃんの部屋は昔と変わらず余計な物はなくて整頓されてた。
可愛い物より大人っぽい物が好きで落ち着いた色の部屋、自分の部屋より居心地が良いのは好きな人の匂いがするからか。

「ほらおいで」
「うわ!今、子供扱いしたっしょ」
「ほーら!文句言ってると追い出すよ?」

そんな事しないのは分かってるけど「勘弁してー」ってノリよく答える照れ隠し。
電気を消してねーちゃんがすでに入ってる布団へ潜り込む。
ぎゅっとねーちゃんを抱き締める形で。

「昔はよくこうしたよね」
「和成がまだ一人で寝れない頃ね」
「小学高学年になってから恥ずかしくて部屋分かれたんだよな」
「ちょっと寂しかったよ、だって甘えん坊が成長したんだなって」
「また子供扱いするー」
「でも…もう子供じゃないんだね…」

ねーちゃんの抱きしめかえす力が少し緩んだ。

「うん…ねーちゃん」
「……」
「寝ちゃった?」
「……」
「大好きだったよ…ねぇ…さちこ…大好き…だった…」

嘘だよ…まだ好きだよ。
だけど大好きだったよ…。
優しいとこも、芯の強いとこも、可愛いとこも…全部…ぜんぶ。

大好きでした。




ぬくもりが眠るとき。




目が覚めた時、横にいるねーちゃんの目元に涙の後があって、それで少しスッキリしたんだ。


ありがとう、この気持ちサヨナラ。



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