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君に贈るダリア10
「ちょっとちょっとさち!アンタ何やってくれてんの!?」
「え?どうしました?」

笠松くんとの日曜日が終わり月曜日の仕事場、事務所に入るなりマネージャーが物凄い形相で迫ってくる。

「昨日!!昨日なにやってたのよ!」
「昨日……まさか」

昨日と言えば日曜日、しかも笠松くんと一緒にいた、そしてその日曜に何をやっていたかマネージャーが聞いてくるということは。

「週間芸能から電話来てんだけど…」
「あっちゃー…まずいなぁ」
「不味いわよスキャンダルとかやめてよね!!」
「笠松くん一般人なのに…」
「その前にあんたがまずいことになるでしょーが」

私は至って冷静に笠松くん受験生なのに私のせいでマスコミに囲まれたらヤバいなーなんて思っていて。

「週間芸能にはお友達って言っといたけど…実際どうなのよ」
「お友達…ではないですね、恩人です」
「もしかして前いってたナンパされてヤバかったの助けてくれた高校生?」
「因みに黄瀬くんの高校の先輩です」
「まぁ……とにかく…恋人じゃないのね」
「はい」

マネージャーは深いため息をして疲れた顔で私に背を向けた。

「打ち合わせするわよ」
「はい」



打ち合わせは至極簡潔に済んだ、春にアルバムを出すからそのつもりで作曲しろ…と。
勿論毎日曲作りはしているからデモは沢山ある、ピンとくる物は全くないけど。

しかし困った、せっかく知り合えた笠松くんに迷惑をかけてしまうような事態が起こった、まさか週刊誌に見られていたとは…
勿論そんな邪な関係ではないし只の恩人だ、だけど彼らにはそんなこと関係ない。
面白ければいい。

「さちっちー!」
「あれ、黄瀬くん?」
「えーっと……スミマセンでした!!」

そろそろ帰ろうかな、なんて思って事務所の扉の前についた瞬間扉が開いた。
入ってきたのは黄瀬くんで黄瀬くんは事務所に来るなり私の前で頭を下げた。

「ちょっちょっ…黄瀬くん!何やってんの!?」
「マネージャー…」

私のマネージャーが何事かとバタバタやってきて黄瀬くんを問いただす。
黄瀬くんは眉を下げて申し訳無さそうに俯いた。

「さっき…学校の帰り道に週間芸能のライターにあって…さちっちの話聞かれて…俺が昨日もっと気の利いたところに案内すればよかった…」
「黄瀬くんのせいじゃないよ…最後は2人で帰ったわけだし…ていうかごめんね、黄瀬くんにまで迷惑かけちゃったね」
「さちっち…」
「お礼も出来たし…笠松くんには二度と関わらないことにするから…マネージャーも心配かけてスミマセンでした」

それでは失礼しますってマネージャーに頭を下げて黄瀬くんの横を通り過ぎようとした瞬間、手首を掴まれた。

「だめッス!!」
「え?」

それは黄瀬くんの手で、目線を上に上げて黄瀬くんを見れば酷くつらそうな顔をしていて。

「今日の休み時間…俺の教室に笠松先輩がきたんッスよ…今日は部活休みだけど明日から練習見に行っても良いかって!!俺、嬉しかったんッス!だってずっと…引退してから俺らのバスケット見てると辛そうな顔してたのに…」
「黄瀬くん…」

黄瀬くんはいつも大人のいうことを忠実に聞くいい子と言うのが事務所側の印象だから後ろで聞いていた事務所の誰もが驚いた顔をしていた。
まるで駄々をこねる子供のように私の腕に縋り付くように懇願する彼の姿。

「さちっちが…笠松先輩を…」
「でもね、笠松くんはただの恩人で…」
「本当ッスか…ただの恩人ってだけですか…?」
「え?」

黄瀬くんが泣きそうだった顔を正して、鋭い目で私を見据えていたまるで私の心の中を炙り出さんとするように。

「俺…さちっちから男の話題がでるの初めてだったんッスけど」
「恩人…だからだよ…」
「さちっちにとって恩人の重みが他人より違うのは知ってるッス…だけど聞いたッスよ…笠松先輩が嬉しそうに話してくれたッス…また会う約束したって…さちっちにとって!」
「黄瀬くん」

熱くなる黄瀬くんの言葉を遮ったのはマネージャーだった。
マネージャーは目を伏せて眉をひそめて再び開いた目は私を見ていた優しい目だった。

「あなたは、モデルでもあり…女でもあったわね」
「……ありがとう御座います」

それだけで全てが許されたのだと知ることが出来た彼女とは私がモデルだけしていた頃からの付き合いだ。

「ただし、中途半端にしたり相手を傷付けるようなことがあるならやめなさい」
「はい」
「さちっち…」
「ありがとう、黄瀬くんのおかげだよ」
「…はいッス」

黄瀬くんの背中を押して2人で事務所を出れば雪が降っていた、今日は1番の冷え込みだってニュースでやっていた。

「この気持ちがまだどんな意味なのか分かりかねているけど…とっても居心地がいいの」
「…さちっちは笠松先輩とこれからも会ってくれるッスか?」
「迷惑じゃないかなぁ」

誤魔化すように笑ったら。

「迷惑じゃないッス!」
「ふふっ…黄瀬くんが答えちゃうんだ」

私の体に落ちてくる雪が
私の心に落ちてくる幸が

冷たくて、暖かくて可笑しかった。








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