さちこさんと付き合えることになった僕はさちこさんの家でご飯を食べる機会が増えた。 今日のご飯も美味しい、しかし今日は言わねばならない事がある、僕は食事の途中で箸を置いた。 「さちこさん、来週の日曜日はあいてますか?」 「あいてるけど……どした?テツヤは部活じゃないの?」 「はい、部活です」 「うん……うん?」 僕の問い掛けにさちこさんは訳が分からないといった表情をした。 「実は来週の日曜日は僕の高校で練習試合なんです、身内の応援とかOKなので見に来てほしいんですが…」 「あ、そういう事ね…うんうん、いいよ行く行く!テツヤの試合姿なんて初めてだねー」 「はい、それが聞けて俄然やる気が出てきました…頑張ります!」 僕はさちこさんの快い返事が聞けて残っていたご飯に再び専念した。 来週の日曜日が楽しみです。 相手校は無名校、関東予選で勝ち上がってこないような高校、しかし選手の身長が皆190cm以上、PGすら190cmはある。 非常に高さのある相手で目的は高さに対する慣れ、である。 試合は午後からで相手校も13時到着予定、午前中は練習。 それなりに予行練習と称してさっきから木吉先輩が僕も含め他の部員にディフェンスを仕掛けてプレッシャーを与える、と言ったことをしている。 因みに火神君は木吉先輩みたいに器用なことが出来ないので1人別メニュー。 「よーし休憩!」 「しゃー飯だ飯ー!!」 火神君が待ってましたと吼える。 僕はというとさっさとロッカールームにいって携帯を確認する。 「すみません、ちょっと表門まで行って来ます、すぐ戻るので」 「え、ちょっ…黒子くーん?」 監督の返事も待たずに僕は軽い足で駆け出した、メールは1通、「着いたよ」と。 「テツヤー」 「さちこさん、よかった来てくれて」 「くるよー、それよりお弁当!はい!」 手渡されたのはバンダナに包まれたお弁当、それの重みに僕は嬉しくなる。 こういう風に僕の為に会いに来て僕の為にお弁当を作ってくれる、さちこさんとつき合うようになってから自分の為に何かしてくれることに心がキュッとするのだ。 「どうぞ、入って下さい」 「えぇ…もう?緊張するなぁ…」 体育館へ誘導してどうぞと手を出せば挙動不審のさちこさん、ちょっと可愛い。 「ちょっと!黒子君どこいってた……どなた?」 監督が呆れたような表情で入ってきた僕に近付いてきたが横にいるさちこさんを見て動きをとめた。 「お…お邪魔します…」 「えっと……お姉さん?」 「違います、彼女です」 「なぁあにぃぃいい!?」 体育館の舞台の上でお弁当を食べていた部員から声が聞こえた。 「黒子に彼女…」 「え、てか年上じゃね…」 「大人の女性だと!?」 全部聞こえてますよ…皆さん。 さちこさんじゃ横で困ったような悲しそうな顔をしていた。 「はじめまして相田リコです!」 「はじめまして白石さちこです…いつもテツヤがお世話になってます」 「いえいえそんな…応援に来てくれたんですよね…ありがとう御座います!!」 監督が慌てたように自己紹介をして、それからなにやら意気投合しているさちこさんを監督にまかせて僕はお弁当を広げた。 「それ、黒子の彼女が作ったの?」 「あげませんよ」 「いらねーよ…んな大事そうに持ってたらよ」 火神君はそう言って苦笑いをしてそれから「にしても」と僕のお弁当から目をそらしてさちこさんをみた。 「いいのかよ」 「なにがですか」 「お前、いっつも言葉足らずだしよ…さっきの、きにしてそーだったけど?」 「よけいなお世話です」 勿論僕だってわかってはいます、だけど僕が不甲斐ないのも。 だけど彼女を満足させるだけの言葉も持ち合わせてないんです。 「難しい顔してんじゃねーよ黒子、思ったこと言ってやればいいんじゃねーの?んでついでに自分の女だ、文句あっかつってやれよ」 後半は流石に火神君じゃあるまいし…と思いましたが、そうですね一歩踏み出すときなのでしょうね、何時までも不甲斐ない僕じゃ居られません。 「さちこさん、お弁当おいしかったです」 「ありがとう」 「それから、周りがなんと言おうとどんな目で見ようと僕の気持ちは変わりません」 大きく見開かれたさちこさんの目が一度ゆっくり閉じて、それから真っ直ぐ僕を見つめて笑った。 ありがとう、そう聞こえた。 |