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君に贈るダリア9
暖かいカフェからさちさんと出てくれば2人して寒さに身を震わせて、「寒いね」ってさちさんが笑った。

話してみれば色々わかったことがあって、本当に大人だなぁって(勿論さちさんの方が年上だけど)尊敬できる人だと言うことや少しおっちょこちょいだったり。
それにナンパ現場が俺の家の近くでって話をしたらさちさんもその辺に住んでてお互いの住んでる家がかなり近所だったり。
あれ…俺って女性苦手じゃなかったっけと言うほど帰り道での話は尽きなかった。

間もなく家が近い、と言ったところで。

「あ!なつかしいなぁー!」
「えっ」

ふとさちさんが足を止め感嘆の声をあげた、何かと思えば公園で、俺も小さい頃はお世話になった公園だった。

「ここね、よく遊びに来てたの」
「昔、ですか?」
「うん、ここって遊具充実してるでしょー、公園っていったらここだったもん」
「俺もよく来てました…バスケットゴールあるんで」
「笠松くんもこの公園来てたんだ!…すれ違ってたかもね!」
「そうですね…」

さちさんは徐に公園の敷地に入っていき俺は後を追った、公園が見渡せるベンチに腰掛けて伸びをするさちさん。

「笠松くんも座りなよ」
「あ…はい…」

さちさんが横に座るように促す、少し緊張しながら少し間を開けて座ることにする。

「なんか、公園って空気が違うよね…」
「空気ですか…」
「んーワクワクしない?何度も来てるのに、もう大人なのになんだか楽しくて気分が高揚するの」
「……わかる気がします、小さい頃のワクワクした経験が公園とイコールになって…公園にいるってだけで楽しいっていうか…」

話しながらさちさんの向こう側を見れば、ハーフコートのバスケットゴールで小学生位の子供たちが楽しそうにしてるのが見えた。
拙いながらもドリブル、シュート、ディフェンスだってしていた、懐かしい自分の姿がフラッシュバックする。

「公園って久しぶりに入ったけど…やっぱり楽しいね!」
「えっ…あ、はい」
「ん?どうしたの……あぁ」

さちさんは俺の微妙な返答に疑問符を浮かばせてそれから俺の目線の先を追って納得した。

「笠松くん、バスケットやってるんだもんね」
「え…なんで知って……黄瀬ですか…」
「そんなとこっと…」

さちさんはベンチから立ち上がりバスケットコートに向かった、それを俺は立ち上がるだけで追いかけず見守る。
さちさんはバスケットをしていた子供たちを呼び寄せて何かを話してそれから振り向いた。

「笠松くーんおいでー!一緒にやろー」
「えっえぇええ!?」

どうやら話していたのはバスケットを一緒に出来るかどうかだったらい…が妙に子供たちのテンションが高い。

「おにーちゃんバスケット選手だったんでしょ!」
「俺たちもチームなんだ!」
「私たちにバスケット教えてー!!」

俺はあっと言う間に子供たちに囲まれてさちさんはニコニコしていた。

「ほら、笠松くん!」
「……んじゃほらみんなシュート見せて!」

子供たちのキラキラした目を見ていると何となく後輩達を思いだしてしまって気付けばいつもの練習みたいな熱の入り方をしてしまった。

「ねーねーおねーちゃんもやろうよ!」
「私は下手くそだから…」
「おにーちゃん教えるの上手だよ!」
「えー…でも…」
「さちさん!!やりましょう!」

言ってからハッとした、今…俺誰になんて言った?
顔がカッと熱くなりしてしまったことに恥ずかしさを覚えた。

「そこまで言うなら…やってみようかな」
「わぁーい!」

年上の女性を誘ってしまった羞恥心に狼狽えていたのにそんな気持ち知らずにさちさんはこちらへ向かってきた。

「持ち方ってこう?」

固まってる俺からバスケットボールを受け取りシュートフォームを作る。
だけどそれは俺の持ち方で。

「いや、小学生とか女性とかパワー無い人は両手打ちで…」

あれ、初心者って普通片手打ちしないし…今まで子供たちを見ていたら両手打ちしてるのだってわかってるはず…
まさか俺を見ていた……いや!んなわけあるか!

「こうか!」
「へっ?」

さちさんの放ったボールは綺麗な弧を描いてゴールに吸い込まれた。
やっぱり初心者じゃないんじゃないか。

「わーおねーちゃん上手!」

だけどそんな事より、頭で他のことを考えながらさちさんの持ち方を教えていた俺は気づいたらフォームを直すためにさちさんの腕を、腰を…兎に角物凄い至近距離で。

「おにーちゃん顔真っ赤ぁ!」
「きゃー!」
「つき合ってるのー?」
「恋人同士?すっげー!!」
「んなっ…るっせー!!」
「まぁまぁ…」

真っ赤になって子供たちを怒れば子供たちは楽しそうに散らばっていった。
さちさんはニコニコしていて全く動揺していないようで少し寂しい気持ちになった
あれ…なんで寂しいんだ。

「笠松くん、かっこよかったよ」
「え?」
「教えるの上手だね、笠松くんの教えてくれた格好でシュートしたら入っちゃうんだもん」
「初めて、だったんですか?」
「うん、初めてバスケットした!授業は球技出れなかったから……」
「なんで……ってもしかして痣とか…」
「昔ね…顔に作っちゃって以来ダメって言われてて」

さちさんは苦笑いをしてもう一度ボールを持った、それから片手でボールを放った。
それはリングにもネットにも掠らず手前の方で落ちた。

「笠松くんの投げ方は難しいね!」
「…一応届かそうと思えば出来ますよ…さちさん結構筋力あるし…」

さっき触ってしまった腕は細いのに筋肉質で鍛えているんだろう事がわかった、これなら原理を理解して正しいフォームならフリースローラインくらいからなら入るかもしれない。

「ふふ…嬉しいな…みんなひょろいって言ってくるから鍛えてたんだけど…分かってくれる人がいて」
「いや…はい…」
「笠松くんと一緒だとなんだか楽しいね…今日はありがとう!受験生なのに大事な休みを裂いてくれて!」

気付けば時刻は16時、冬の陽は傾いていて乾燥した空が鮮やかな赤色をしていた。

「あっ!おにーちゃーん!!」
「ん?」
「ボール投げてー!」

公園が夕暮れのメロディーを奏で始め、子供たちは帰るようで未だ持っていたボールを返そうと振りかぶる。

「よっと」
「おぉお!はぇええ!」
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!今日はありがとー!また遊んでね!!」

無邪気に手を振る子供たちにさちさんは大きく手を振っていた、つられて振りかえす。
子供たちは駆け足で仲良く帰って行った。

「俺…俺も楽しかったです、久しぶりに無心にバスケやって…最初の頃は楽しくてがむしゃらにやってたのに…それがキャプテンに選ばれてから責任感でバスケして…それでも頂点は遠くて…俺が今までやってきた事とか…全部……」

公園に響く別れの奏でが憂鬱とした部分を炙り出して、いつの間にかさちさんに愚痴をこぼしていた。
だけど、さちさんは真剣な顔で聞いていて。

「私はさバスケットの練習とか試合してる笠松くんは知らないけどだけど一生懸命子供たちにバスケット教える姿はかっこよかったっておもったよ。これってキャプテンとして他の部員を引っ張っていく力があったから、指導力があったからじゃないかなって思う…笠松くんのやってきた事って間違いじゃないし無駄なことでもないよ」

さちさんは真っ直ぐ俺を見て、俺の右手を両手で包んだ。

「きっと誰よりも悩んだりしたんだね…誰かを導くって大変な事だもん…だけど笠松くんの素直で優しくて熱い魂からくる正義感は無駄じゃなかったよ…私、笠松くんのこの手に助けられたんだね……本当にありがとう」

さちさんの優しい笑顔は瞳だけが揺らめいて赤い空を反射してキラキラ綺麗だった。
そしてため込んでいたものを吐き出すように俺の頬に暖かい物が伝った。

「……悔しい」
「うん」
「勝ちたかった…」
「うん」
「優勝したかった!リベンジだってしたかった!」
「うん」
「アイツらを…とかそんなんじゃない俺が…俺が勝ちたかっ……」

それ以上は言葉が嗚咽で詰まって何も話せなかった、だけどそれでもずっと手を握ってくれていたさちさんの手はとても暖かかった。




「なんか、すみませんでした…」
「えー?」
「泣いたりして…」
「ふふ…ありがとう!」
「へ?」
「んーん、なんでもない…送ってくれてありがとう」

結局暫く泣いていた俺のそばに付きっきりで居てくれたお陰ですっかり暗くなってしまったのでさちさんを家まで送ることにした。

「あ、じゃあ笠松くん」
「はい」
「お礼に今度、ギターひいてみせてよ!」
「そっそれは…」
「ね、お礼」

少し悪戯っぽく笑ったさちさんは見たこともない無邪気な顔で、可愛いなんて思ってしまった。

「わかりました…」
「じゃあー今度はちゃんと私から誘うね!はい、これ」

手渡されたのは小さな紙。
中にはアドレス……メアドと電話番号だった。




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