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確かにまだ子供かもしれませんけど、本気ですから。
僕が彼女を好きだと意識し始めてからも幾度も2人きりになることがあった。

高校生になった今でも毎晩部活で帰るのが遅い僕は晩御飯の用意だけは誰かに頼らざるしかない。
さちこさんの仕事は何処にでもある企業の何処にでもある係の何処にでもいるOLで、曰わく「定時で上がれるのだけがここの魅力」だといった。
そして毎日18時半には自宅に帰宅して晩御飯を作り20時だとかもっと遅くなる僕のために作った料理を僕の家で暖め直してくれる。

その時よく2人きりになる。
それが中学校の時から続いてることでさちこさんにとってこれは決まり事で、姉が母親の代わりにご飯を作るという行為と同じで、何度2人きりになろうが雰囲気など出ないのだ。

なんて今日もさちこさんの料理を1人で黙々と食べていれば母親が帰ってきた。
母親も残っていたさちこさんの料理を温めて食べていた、暫くして帰ってきた父親も同じくそうした。

「いつも美味しいわねぇ」
「でも本当にいつも有り難いよ」

母親達が話し始めた。
さちこさんのご飯を食べるのは母親が遅いときだけ、でも母親の仕事はほぼ毎日遅い。
だから2人は「いつも」と言ったのだ。

「そう言えば今日はさちこちゃん帰っちゃったのねぇ」
「仕事を持ち帰ってきたので帰ると言っていました」
「それはそれは、悪いなぁテツの為に向こうで片づけずにご飯を作らせてしまったな…」
「ホント…さちこちゃんっていい子よねぇ」

僕は父親のテツの為、というセリフに頭を打たれたような気がした。
思い返して見ればこれまで全部そうだった。

僕が幼稚園児の頃はお迎えがさちこさんだったし。
僕の通う学校とさちこさんの通う学校や仕事場はいつだって近くだったし、使う電車が同じだったりしていた。

そして今、彼女は僕より早く家に帰って晩御飯を作るために仕事を選んだのかもしれない、そんな仮定も出てきた。
彼女が僕の進む方向を幾度も聞いてきたのは全て僕が心配で、僕の為だったのかもしれない。

彼女の目的地までの通り道に必ず僕が居た。

仮定だけど仮定の域を越えた確信じみたものが僕の中にあった。

晩御飯を済ませて、勉強しようと机に向かってみても、痛んだ頭がまだ痛い。
深く深呼吸して決意を固めて、僕は明日を迎える準備をした。



「テツヤお帰り」
「ただいま…です」
「今日はカレーですよ!」
「匂いでわかりました」

エプロンをしたままお出迎え、時刻はまだ19時…多分まだ完成してないのだろう

今日はさちこさんの家でご飯をたべるのが決まっていた、僕の両親が帰宅するのが早くて、本当なら母親の晩御飯の予定だったのに僕が我が儘を言ってこっちで晩御飯を食べると言ったから。
急に連絡してもさちこさんはこうやって晩御飯を作ってくれるのが特別扱いを受けているようで嬉しかった。

「お母さんがねー」

台所に立つさちこさんが話を始めた。
2人きりだから僕に対して。

「お母さんがね、良い人早く見つけなさいって最近うるさいのよー」
「さちこさんもいい歳ですもんね」
「年齢の話はやめなさい」

内心、本当はスッゴく慌てていた。
もしかしたらこうやって僕の為にしてくれることも無くなって行くかもなんて、そんな仮定だって昨日したばかり…
だからいつの間にか座っていた食卓テーブルから僕は立ち上がって台所まできていた。

「どした?もうちょっとで出来るよ」
「はい」
「もしかして手伝ってくれる?」
「はい」
「ありがとうそしたら……え?」

手を握っていた、さちこさんの驚く顔が目の前にあって、僕は思いの丈を。

ホントはこれで良いなんて思ってなかったんです。

「僕、まだ子供です、だけど好きです…本気です」
「テツヤ…?」
「だから待っていて下さい、絶対に誰より愛してる自信があります」
「からかってる…?」
「ごめんなさい」

僕は謝ってから未だ驚きっぱなしで半開きの唇に自分の唇を押し当てた。

「ごめんなさい、本気です」




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