「てーつや!」 「あ……どうも」 「どうも…っておいっ!」 朝の登校時間、名前を呼ばれて挨拶するとコツンと頭を小突かれた。 可笑しいですね、ここかなり人通りの多い商店街なんですけど。 まぁ昔から彼女には影の薄さは通用しないのは知っています。 なんたって僕がまだ産まれて間もない頃からずっと近くに居るんですから。 「幼馴染みに随分余所余所しい態度じゃない?さちこさん傷つくぞっ!」 「さちこさん、幼馴染みっていうほどさちこさんは当時幼くなかったです」 「年齢の話はやめなさい」 そうさちこさんはお隣の家のお姉さん、歳は…怒られるのでやめますが僕は高校1年生、彼女は社会人…という歳の差があるので幼馴染みではないですね。 小さい頃はお世話になりました、お互い共働きの親を持つ同士、僕が幼稚園児の頃は彼女がお迎えに、小学生の頃なんかは毎日さちこさんの家で一緒にお留守番してました。 中学生になって一緒にいる時間が減ってもお隣さんですからよく会いますし、そして今も。 「仕事…どうですか?」 「楽しい!……とまでは行かないけどそれなりにやりがいは感じてやってるよ」 「得意ですもんねそういうの見つけるの、凄い適応能力です」 「ちょっと馬鹿にしたでしょ!」 「はい」 「素直っ!」 本当に姉弟みたいに育ってきました、お互い知らないところは無いんです。 嘘です。知らないことあります、勿論彼女も僕の心なんて知るはずもないんです。 僕がずっとずっと前からお隣さん、幼馴染み、姉弟みたい……そんな肩書きではなくてもっと特別な場所に立っていたいと思っている事なんて。 「テツヤは楽しい?」 「…はい、今はとても」 「良かった!…だけど寂しくなるね」 「どうしました?」 「なんか親離れじゃないけど…テツヤも確実に大人になって私を思い出にしちゃう時が迫ってきてるなって、親心?」 「さちこさんは僕を産んでないです」 「知ってますー」 「……僕はずっと僕のままです」 「そうだね、私は今のテツヤが一番好きだよ」 そう言って何時もの笑顔を見せてくれる彼女は残酷です。 僕がほしい「好き」の意味はそんなキレイな愛に満ちあふれたモノじゃないんです、もっともっとヨクボウまみれの醜い愛でいいんです。 僕は精一杯いつも通りに。 「からかってるんですか?」 「無表情!?えー!テツヤ好きだよ私!」 「知ってます」 「ならよし」 これで良いと自分に言い聞かせるのです。 |