さちっちは俺がまだモデルなりたての頃とてもお世話になった人だ、既に読者モデルとして一部で有名だったさちっち、まだ右も左も分からない俺に芸能界でのルールなんかを優しく教えてくれた人だった。 学校生活ではキセキの世代、とか呼ばれて色んな高校からお誘いがあってモデルの仕事もあるのに珍しく悩んじゃってイイ顔できなくてカメラに写りたくなくて、スランプしてたのにさちっちの「海常高校はバスケット毎年強いし、よく試合の会場校にもなるしオススメだよ」その言葉だけで決めてしまえる程さちっちを信頼していた。 勿論その後気が晴れた俺はすぐさまスランプを抜けモデル活動を始められたわけで。 感謝仕切れないそんなさちっちが今、笠松先輩にお礼がしたいと願っているのをどちらとも知り合いの俺が橋渡し役にならない理由がない。 だって笠松先輩もバスケットが本当に楽しいスポーツだなんて教えてくれた恩人なのだから。 「あれ」 「あー!さちっちー!」 件の日から1週間たったある日のスタジオ。 撮影現場で知り合いの芸能人と一緒になる事なんて…さちっちに関しては良くあること。 俺とさちっちの仲の良さはマネージャーも知っているし兄弟のようだと形容されたこともある。「さちちゃんが妹ね」とか言った怖いもの知らずのメイクさんはさちっちにシバかれました。 そんなんで、まぁ仲良しだからお互い緊張しないために(その方がいい絵がとれる)同じ時間に同じスタジオで撮影、なんて事が良くある。 「先週ぶり、黄瀬君!」 「お久しぶりッス! そうだ!聞いて下さいよ!あの後学校凄い騒ぎでー」 他愛のない話から始め、そして切り出そうと思っていた、「お礼」について。 因みに一番盛り上がったのはさちっちが卒業生だって解っちゃった!とかいう件。 「……それでさちっち、笠松先輩なんですけど…」 「笠松くんがどうしたの?」 「今度よかったら笠松先輩も呼んで3人でご飯行きません?それなら笠松先輩大丈夫だと思うんッスよ」 漸く本題に入り女性が苦手な笠松先輩も流石に俺がいれば大丈夫だろう、そう思っての提案をした。 だけどさちっちは首を横に振った。 「黄瀬君はね笠松くんの横にいても平気かもしれないけどそこに私が加わったら一番大変なのは笠松くんだから」 そう言ったさちっちは「でも、ありがとう」と言葉を添えて少し切ない顔をした。 そしてぽつりぽつりと…笠松先輩を話し始めた。 「私と笠松くんの間になにがあったか知ってる?」 「はいッス」 「……正直ね、あの時はもうダメだと思ったの、いつも使ってる電車は人身事故で遅れてて、さらにいつも使ってる人気の多い商店街は酔っ払いがひしめき合ってる時間で、仕方ないから人の少ない通りを使ったの。 だから襲われそうになった時、もうここまで不運ならきっと最悪のことが待ってるんだろうなって思ったんだ 死んじゃうかもなって覚悟したのね」 恐怖体験を語るさちっちの表情は穏やかで、これから続けられる言葉に暖かな想像をさせた。 「だけど、見覚えのあるジャージを着た男の子が男複数人を相手に啖呵をきって助けてくれたのよ。 しかも強い強い、そんなに体格も大きくないし、何より高校生だというのに見ず知らずの私を助けてくれたのね…」 「命の恩人ッスね!」 「そうだね、だからどうしてもお礼がしたい、迷惑になっては元も子もないから…何か上げて喜びそうなモノっておもうんだけど…」 なる程、プレゼントか…それは良い考えだと大きく頷けばさちっちは「受験生ならやっぱお守り…とか?」なんて若い女の子らしくない事言うもんだから。 「もっと違うものがいいッス!」 って呆れて返して、唸るように考え事してるさちっちの脳内はいま笠松先輩だらけで、きっとそうであろう事実に俺の顔は綻ぶのだった。 |