小説 | ナノ




この世で一番真剣な。
「せんぱーい」
「んげ…きた……」

海常高校3年バスケ部マネージャー白石さちこ…人生始まって以来のピンチを迎えております。
今年の海常高校のバスケ部に入部した……てか海常高校が獲得したキセキの世代の一人黄瀬涼太は物凄い有名人で物凄いイケメンで物凄くモテる。
そんな彼が数日前から物凄く私に構ってくる。
…本当に凄いので物凄くの押し売りをしたわけですが、彼は休み時間になると飛んでくるし私のマネージャーとしての仕事を手伝おうとする。
小堀曰わく、「白石が真面目で黄瀬のこと何とも思ってないからだとおもうよ」…知るかボケ。
モテる男の自分に興味ない女子は許さん的な思考ですか。
と休み時間にまたやってきた黄瀬を睨みつける。

「黄瀬くん悪いけど私にも友好関係というものがあってね」
「その友達も一緒でいいッスから!」
「………」

ダメだ効いてない、なんも堪えない。
正直、凄く嫌かと聞かれれば彼自身にはなんも文句はない。
寧ろ最初こそサボっていたりもあったが真面目に部活にでるし私を手伝ってくれるし、部活にだって貢献してるし、イケメンだし。
懐かれて嫌な気はしない。
だけど彼のファンに絡まれるのは面倒だ、言いたいことは言わせておけばいいが痛いのは嫌だ。

「ってことで笠松くん今日もご一緒よろ」
「どういうことだよ……つか黄瀬もいるし」
「そう言うことです」

笠松、森山、小堀を前にして黄瀬が少し嫌な顔をした、3年、バスケ部先輩、男子これに囲まれて緊張しないわけがない。

「白石会いに来てくれたの?」
「森山黙れ」
「黄瀬は相変わらずだね」
「小堀くん他人事」

それぞれの先輩が黄瀬に絡む、え?森山?知らね。
しかし黄瀬は空いてる席を引っ張って私の横に座った。

「黄瀬くん……近い…」
「だって…森山先輩が狙ってるんだもん…サバンナの肉食獣のように」
「どーいう意味だ黄瀬コラ」
「いいから飯食えようるせぇ!」
「そいえばさ黄瀬ってなんで白石のこと好きなの?」

…え、小堀それ初耳。
懐いてるだけって言ってたじゃんって黄瀬もなんか照れてるし、は?

「…入ってすぐだったんッスけど…」



『ってて…』

前日、遅くまでモデルの撮影してたおかげで寝不足。
お陰でジャンプの着地の瞬間足を捻った、自主練をフラフラ抜け出し監督室へ向かう。

ガチャ…

『あ…』

そこに先生はいなくて、変わりに何か書き物しているマネージャー…しかも女。
自己紹介のとき白石とか言ってた。
女といえばキャーキャーいってうるさいし面倒だ、保健室より近いと思って入ったが止めようと踵を返した、が。

『ちょっと、どこ行くの』
『え?』
『足!なんも処置しないつもり?許さないわよ』

そう言って白石マネージャーは手際良く足にテーピングをして氷嚢を押し当てたそれもうまいこと固定して。

『今日は自主練だし帰るなら送る、見てくなら笠松くんに事情を話してくる、取りあえず今日は練習禁止』

物凄くまじめな顔でそう言われた。

『み…てくッス』

そう言えば直ぐ監督室を出て行って笠松主将と何か会話をして笠松主将は体育館倉庫に向かい白石マネージャーはこちらに来た。

『向こうの角まで何とか歩いてって』

そう言って体育館を出て行った。
向こう、をめがけて歩き出すとパイプイスをもった笠松主将が手招きしていた。

『無理すんなよ?壊されたらシャレになんねーんだから』

そう言ってまた練習に戻っていった。

『黄瀬くん、これで間違いない?』
『え……あ、はい』

俺の荷物、多分控え室のロッカーから持ってきてくれたのだろう。
丁寧に制服は折り畳んであった。

『それから、これね』

そう言って渡されたのは膝掛け。

『この時期体育館は運動しないと寒いでしょ?』
『でも、これさっきまで先輩が……』

さっき、監督室で使っていたものだ。

しかし。

『いいのよ私は』

そう言って何かを挟んだバインダーをパンっと叩いた。

『これから運動するから』

そう言いながらレギュラー以外の1年2年の指導に入った、為になるレギュラーの自主練を見ずにずっとその的確な指導を見ていた、選手が分かっていない動きをすれば叱咤が飛び、成功すれば無邪気に笑う。

あ……好きだ。



「って言うことがあったッス」
「甘酸っぱい!!黄瀬のくせに!!」

知らなかった…黄瀬にそんなちゃんとした理由が……じゃなくって…ほ…本当に好きなの?

「あれー白石まっかじゃーん」
「えっ」
「まじッスか!?」

ガタッ

私は走り出した。
真っ赤な顔で、走った。

「先輩っ」

捕まった。
手首を捕まれて、そしてひぱられてあえなく黄瀬の腕の中に収まった。

「先輩…本気ッスから」
「うん…」
「好きです」
「うん…」
「……付き合って、くれますか?」
「……………はい」

っしゃぁああああ
っという黄瀬の聞いたこともない雄叫びが廊下中に響き渡り、次の日には学校中が知っている交際で、ファンの子達も黄瀬が幸せならそれで良いと寛大で…

なにがなにやら混乱中の私の手を握り。
「これから毎日今までで一番幸せって想う日が続くんッスね」
なんて顔を綻ばせて笑う黄瀬を見て。


ありがとう。

(そう言わずにはいられなかった)



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