その女性は急いでいた。 何故なら彼女にとって夜道は危険だから。 女性なら皆そうかもしれないが彼女は特に立場上。 普段は必ず誰かが家まで送ってくれた。 そうじゃないときというのは夜道等ではなかったし。 案の定。 「あれーどうしたのー?」 「女の子がこんな時間に危ないじゃーん」 「俺達が送っていってあげようかー」 このセリフは皆違う人間から発せられた言葉だ。 嫌な笑みだ、獲物を品定めするかのような… この手の軟派は不健全に決まっている。 「すみません、急いでいますし実家もそう遠くないので失礼します」 そういって振り払おうとしたその手を男たちは掴みそして彼女をさらに青ざめさせた。 「あっれーまさか歌手のさちじゃん?」 自分を知っている、これは本当に危ない、お陰で逃げ場はなくなった。 物珍しさ、それだけで1ミリでもあった逃げ道が奪われる。 先ほどから何名かすれ違ってはいたがこの男たちのナリが彼等の助けよう、という意志を完全にそいでいた。 終わった。 不健全な行為の後は更なる絶望が待っているに決まっている。 どんなに抵抗してもふりほどけない囲まれて逃げ場がない叫べど誰も手をさしのべてくれない。 1人で帰った私が愚かだったのか。 さちがそう思った瞬間鈍い音がして目の前の男が昏倒した。 同時にテン…テン…と転がるバスケットボール 男の後頭部にそれがヒットしたのだ。 「なんだてめぇ!!」 「くっそ!」 もう2人の男はさちからの注意を外しボールを投げた青年に睨みをキかせる。 「胸くそ悪いことしてんじゃねぇよ…」 部活帰りだろうかジャージを着込んだその青年は負けず劣らずの睨みを返していた。 「んだこらぁ!」 大振りにその青年に殴りかかろうとした男が今度は腹を押さえて倒れ込んだ。 青年は素早い動きで拳をよけた後持っていたスポーツバックを遠心力を頼りに男の腹に命中させていた。 そして追い打ちをかけるかのように残っていた男の後ろから。 「あのっ警察ですか!?今、変な人達に襲われて!」 すっかり存在を忘れられていたさちはいつの間にか電話をかけていた、それを見た男は昏倒してる男を抱えて立ち去り腹を痛めた男もなにか罵声を浴びせながら同じ方向へ去っていった。 ふぅ…さちがため息をついてお礼を言おうと顔を上げた瞬間先ほど助けてくれた青年は慌てたようにボールをひろうと逃げるように去っていった。 「えっ…えぇ!」 驚きを隠せないさちだったがふと足元に何かを見つけた。 「これって…生徒手帳…」 その後駆けつけた警官に事情を話し、暫くして家に着いたのだった。 |