ちびっこ達に付き合って豪炎寺君と一緒にサッカーをした。一緒にやってて思ったことは、豪炎寺君ってサッカー好きなんだなってこと。嬉しそうにボールを蹴る様が何とも言えないくらいキラキラしてて眩しかった。ちびっこ達に教えてる姿もなんか優しげで、本当に昨日の人とは別人みたい。
一体、どっちが本当の豪炎寺君なんだろう。


青春サイダー


「はあ、も、もう駄目だ……」

元気に走るちびっこ達を置いて、なんとか近くのベンチまで這って行った。普段運動なんてあんまりしないから正直体力はないに等しい。そんなレベル1の弱小モンスターである私に、元気の代名詞である子供たちと走り回るなんて無謀だった。人数がそろったことでミニゲームが始まり、開始5分後に横っぱらが痛くなって、10分後には臓がきりきり痛んでリタイアした。我ながら情けない。

もやしっことは対照的に、豪炎寺君はちびっこたちとまだ走り回っていた。やっぱり運動部なだけあってかなりタフだ。

しかし、久しぶりにこんな動いた。頬を伝った汗をぬぐって、空を仰ぐ。全身汗だくで気持ち悪いけど、体には気持ちいい疲労感があって、思いっきり息を吐いてみた。それをさわさわと風が撫でていってすごく心地いい。

「元気だな、あいつら」
「わっ、豪炎寺君!」

油断してゆるみきってた所に、豪炎寺君の声が聞こえて、思わずわたわたとしてしまった。び、びっくりした。

豪炎寺君はここいいか、と断って私の隣に座る。
今までで一番近い距離に、また心臓がどくどく動き出した。うう、緊張してきた。さっきは優しそうに笑ってたけど、やっぱりどうしても昨日の事を思い出しちゃうなあ。そうするとますます緊張は高まっていく。

何か話さないと。そう思うけど、考えれば考えるほど頭がこんがらがって散らかるばっかりだ。
そんな調子でやっかいな沈黙がやってくる。ああどうしよう!本当に気まずい!なにか、なにか話す事ないの!?


「…昨日は悪かった」
「えっ?」

胸中で大騒ぎをしてたら、豪炎寺君から思いがけない言葉が手渡された。
思わずぽかんとしてしまう。

「昨日?」
「昨日、森にここで会った時のことだ」

それはつまり。
昨日私が豪炎寺君に話しかけた時の事を言ってるのかな?
不思議そうな面持ちのまま豪炎寺君を見る。

彼はバツが悪そうな顔をすると、ふいっとそっぽを向いてしまった。そして泥のついたスパイクを地面にこすりつける。
じゃり、と砂の擦れ合う音が響いた。

「昨日森に話しかけられた時、当たるような態度取っただろ」
「……」
「特訓が少し行き詰ってて気が立ってたんだ」
「え、と」

すまない。その言葉とともに、恐る恐るといった感じで再び目線が交わる。強い意志が秘められたようなその目は、惹きつけられるような魅力を持っていて、一瞬それに見惚れる。だけど、はっとしてすぐに頭をぶんぶんと振った。

「全然気にしてないよ!む、むしろ練習の邪魔しちゃって私が謝らなきゃ!ごめんね」
「いや、そんなことはない」
「今日も、迷惑じゃなかった?」
「本当に大丈夫だ。気にするな」
「そ、そっか…」

豪炎寺君が笑った。今日何度目かの笑顔だ。

空がうっすらと橙色に染まっていく。街も、池も、木々も、そして、今やわらかく微笑んでいる豪炎寺君も、全部橙色に色づけていった。鼓動がとくんと高鳴る。やっぱり豪炎寺君は優しいんだ。じゃなきゃこんな風に笑えない。普段の彼は冷たそうな印象を抱かれがちだけど、きっとそれは豪炎寺君の本質じゃなくて。本当は、人の事を思いやれるとっても優しい人なんだ。

理由はよくわからないけど、なんだか泣きそうになった。
別に悲しいわけじゃない。嬉しいわけでもなければ悔しいわけでもない。だけどなんか無性に胸がざわついて、良くわからない感情がどんどん溢れてくる。
豪炎寺君の瞳を見れば見るほど感情の泉からその得体のしれない感情が湧いてくる。


「どうかしたか?」
「な、なんでもない」

不意に声をかけられて我に返る。も、もしかしてずっと見つめちゃってたのかな。そうだよね。う、うわ恥ずかしい!胸中で焦りまくる私とは対照的に豪炎寺君は落ち着き払っていて、空を仰いでいた。

そしてぽつりとつぶやく。

「試合、明日なんだ」
「…フットボールフロンティアだっけ?」
「ああ。そのために、明日までに完成させないといけない技がある。連携技だから、今のままじゃ出来ないかもしれない。だがオレは完成させて勝ちたいと思っている」
「だからあんなに練習してたんだ」
「そうだ」
「焦ってたのも、そのせい?」
「ああ。だが――」

きっとそのためにあいつは頑張っているはずだ。それは明日必ず現れる。だからオレは信じることにした。オレは何を焦ってたんだろうって、ちび達と遊んでたらそう思えてきた。豪炎寺君は空を仰いだままそう言った。その表情はどこか好戦的で、不安や焦りは全く感じられない。とても技が完成してないようには見えなかった。それは言葉通り、きっとすごくメンバーの事を信頼しているからなんだろう。

「絶対できるよ」

豪炎寺君と私は昨日会ったばっかりで、お互いの事何にも知らない。なのに、なんかあったかい気持ちになってて、気付いたら、拳を握りしめてそう言っていた。
豪炎寺君がサッカーの事を楽しそうに話すだけで私も楽しくなって、彼が笑だけでと心臓がうるさく騒ぎだす。おかしいな。今日初めてちゃんとしゃべったばっかりなのに。

「私、豪炎寺君達なら絶対出来ると思う。サッカー好きなんだってすごい伝わってくるもん」

頭の回路がしびれるように麻痺してる。だから普段なら絶対恥ずかしくて言えないようなことが言えたんだろうな。
ぼうっとそんなことを考えていると、空を見ていた彼の視線が私を捉える。

「絶対、か…」
「あっ部外者が何言ってんだよって感じだよね、ごめん!」

はっと我に返った。豪炎寺君からしたら、昨日の今日見知った人にそんなこと言われても困るよね。うわ、いきなり突っ走っちゃった。最悪だ。
自責の念にかられていると、豪炎寺君が声を立てて笑った。

「思ってたんだが、森はけっこうマイナス思考なんだな」
「…そ、そうかな?」
「ああ、かなり」

笑われたことが恥ずかしくて、でも笑ってくれてることが嬉しくて、私も口元がほころぶ。豪炎寺君がああ言ってくれてるってことは、きっと私が応援しても迷惑じゃないんだよね。その思いが心に広がると、なんかもう嫌われたら云々がどうでもよくなってきた。思ったことを口にしよう。

「わ、私応援してるね!」
「森…」
「雷門が勝つって、豪炎寺君が勝つって絶対信じてる!」


そう言うと、豪炎寺君は力強く頷いてくれた。


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