私が住んでいる雷門町とは、読んで字のごとく雷を象徴した町だ。シンボルとして町の真ん中に鉄塔広場という丘のような場所があって、私はそこによく行っていた。オススメは黄昏時。街全体が橙に染まる光景が一望できて、それはそれは圧巻ものの美しさなのだ。

今日もいそいそと学校帰りに鉄塔広場に寄る。
お茶を片手にしばらくぼけーっと景色を楽しんでいつもと違う道を使って帰るだけのささやかな行為だけど、私はこれをひどく気に入っている。広場で遊んでる子供たちや、池を泳ぐアヒル、気が生い茂る森なんかもあって、一日一日の鉄塔広場の風景を見るのがたのしかった。

夕日が沈みかけたところでベンチから立ち上がる。さて今日は公園とは反対側の道から帰るかな。気分でそう決めて私はコンクリートの階段を下った。



青春サイダー



「…え?」

喉から変な声が漏れた。上手く呼吸しそこなったような、そんな感じの声だ。

「…っくそ」

変な人。
最初に浮かんだのはそんな言葉。だけど、うちの学校の名前が入ったユニフォームを着てるとわかるとそちらを気にせずにはいられなかった。
少し開けた場所で、男の子が一人ドロドロになりながらなにかをしようとしていた。腕、足、顔は擦り傷だらけで、一目見ただけで自然と眉が寄る。

そんな悲惨な状態になるまで一体何をしてたのかと思えば、目の前の男の子は、いきなり高くジャンプし不安定な足場に乗る、なんていう危険な行為を繰り返していた。しかし、そんな行為はっきり言って無謀に近い。ロープでつるされた丸太はブランコの如くゆらゆらと揺れている。しっかりした足場にしがみつくならともかく、そんな自由奔放な足場に飛び乗るなんて物理的にむりがあるだろう。

「うっ…!」

案の定、ぐらりとバランスを崩したかと思えば、彼は背中から地面にたたき付けられていた。
い、痛そう。
見てるこっちの顔が引きつってしまう。

それなのに男の子はやめる気配が全くなくて、切れ長の目で揺れる足場を睨む。そして再びそれに乗ろうと跳ひ上がった。

確かあのユニフォームはサッカー部。どうしてあんなことしてるのか。

変な、というのは失礼だがそんな変わった光景に、私は帰ることを忘れてぽかんと見ていたのだった。そんな私の視線に気付いたのか、それまで練習に熱中していた彼がこっちを見た。
視線が重なる。

「……」

色素の薄い髪と日に焼けた肌。対照的な二つの色は彼の存在を引き立てるのに一役買っていた。そしてすっきりとした顔にあるのは切れ長の瞳。意志の強そうなが双眸が印象的な男の子だった。

「…い、痛そうだね」

じっと見てたことへの後ろめたさと気まずい沈黙を破るため、とっさによくわからない言葉を放ってしまった。しまった、サッカー部頑張ってるねとかのほうが当たり障りない気がする。
案の定男の子はどう答えたらいいのか考えあぐねているようで、眉間に深いシワが寄る。うわあ。なんてわかりやすい態度。お前誰だよっていう言葉が顔に書いてあるかのようだ。

「わ、私雷門中の生徒!」
「制服を見ればわかる」
「あっそうだよね」

会話終了。
一見、スポーツマンに多い熱血タイプのうるさい人かと思いきや、見た目に反して返事は淡白だった。あまり会話が続く性格ではないようだ。気まずくて話しかけてしまったけど、会話が終わった今現在、話しかける前より気まずさが増しているのは気のせいだと思いたい。
再び変な沈黙が訪れてしまう。
これは早々に退散したほうがよさそうだ。練習の途中だったみたいだし。

「…練習頑張ってね!」

じゃあね、へらりと笑って逃げるようにその場を立ち去った。
男の子は返事をするわけでもなく、無言のまま私を見ているようだった。

無口な人。返事くらいすればいいのに。

心でぽつりとつぶやくと、私は階段を駆け下りていった。

title:Endless4


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