思えばその場所に入った時から、確かに違和感はあったのだ。

ヒトで溢れる、騒がしい街。そんな中で、ただ一人が気になるなんて。

私が、ヒトを気にするなんて、到底ありえないことなのに。





初めに気付いたのは、強い視線だった。珍しいものを見るような、それでいて観察するような。どちらの種類のものにももう慣れていたが、なんだかこれは少し違うような気がした。

視線を感じる方を見ても、死角になっているのか姿が見えない。けれど、気配は確かにこちらにある。やめておけ、気にするなとボール内から言われている気がするのを無視して、私はそちらに歩き出した。
こんなにもヒトのことに引っかかりを覚えたのは、初めてだったから。


「何かご用ですか」


見つけた人影に声をかける。出来るだけ優しく聞こえるようにしたつもりだったけれど、その少女は見つかると思っていなかったのか肩を跳ねさせた。そしてバツが悪そうな笑みを浮かべる。珍しい紫の髪と同じ色の瞳。何より、見た目よりもずっと大人に見える雰囲気がある。大人っぽい、ではなく、まるっきり中身が大人であるような、そんな印象。人のことを言える立場ではないが、彼女は酷く変わっている。何がとは言えない。ただなんとなく、自分とは違う。
それは彼女が、ヒトから好かれている、とわかったことだけではなくて。
得体のしれない違和感を探ろうと彼女はみれば、さらに続いた柔らかな声。


「何だか貴女がブラッキーに見えてしまったから、つい」


思いがけない言葉だった。ヒトとしてみられないことの方が多かったが、なんの悪気も無く、純粋に思ったことを述べるように、ポケモンに例えられるとは思わなかったのだ。


「…そんな事を言われたのは、初めてです」


けれど、的を射ている。内心でそう自嘲していると、彼女は自身の鞄を探り始めた。なにか探しているらしい。


「なんかごめんなさい。ああそうだ、あなた辛いものは?」
 
 
「大丈夫ですが…」
 
 
「じゃあ、はいこれ。お近付きの印に。このクッキーね、最近ライモン名物としてビリビリ舌にくる激辛あ、じ…」


そういって出したものは、何世代か前のパッケージの菓子だった。いったいどこから持ってきたのか。久しく見ていないその外装をまじまじと見る。
同じように気付いたらしい彼らが、心配してか騒ぎ始めた。
一体何者なのだろう。接するほどに、近いようで遠いようなこの感覚。だが、何がこうまで違うというのか。
やっぱり違う。そう考えたことは、どうやら声に出ていたらしい。彼女は何かを聞きたそうにしていたが、知ったことではないと混乱し始めた脳内を整理することを優先した。
すると彼女が発したのは、黙ってしまった私を心配したものでも、私に疑問を投げかけるものでもなく。


「きっと、ポケモンの戯れだと思うよ」


彼女はただ、そう言った。まるで答えを知っているような口ぶりで。だから大丈夫じゃない?と、独り言のように。
それは、未だわからない私の頭の中に、ただ一つ事実として落ちた。違う、としか理解できないこの感覚の中で、それだけがすべてであるように。



「ありがとう」



同じく独り言のように言うと、隣の紫の光がゆるく笑んだのが見えた。それにつられて笑いかけたところで、ざあ、と突風が吹く。すべての人が顔を伏せるような強い風。その様子を風の中で見れば、避けるためか顔を腕で覆っていた彼女の姿が掻き消えた。
それは風に攫われたかのようで。


「…戻った…?」

急激に、彼女の姿が消えたと同時に、この場所へきた時に感じた違和感が消えた。そのこと自体に、また違和感。ただ何故だか、街は元のままに戻ったのだと確信した。彼女がもたらしていたからなのか、どこからかわからない場所から戻ってきたと感じるからなのか、わからないけれど。
ふっと、私も頬を緩める。かたかたと暴れ続けていた彼らを、ボール越しにそっと撫で、落ち着かせて。


「また、会えるといいなあ」


いや、おそらく会えるのだろう。
そんな予感に応えるようにボールが一つ、かたりと鳴った。





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みや様ありがとうございます!
謎が解明したようなすっきり感!これぞ文章力の違い!なんて考えながら読ませて貰いました←
他所の夢主ちゃんから見た自分ちの子の文章って、何だか嬉しくなりますよね。しっかりばっちりと設定も生かして下さって、嬉しい限りです(*ノω`*)

みや様、改めてこれからもよろしくお願いします!

※この小説のお持ち帰りはご遠慮下さい



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