ひとはだれしも、あいじょうというものをもとめます。それはもちろんひとだけではなく、ぽけもんもどうようです。そして、そのあいじょうのもとめかたには、さまざまなしゅだんがございます。
さて、わたくしたちのとれーなーであるかのじょは、かわいらしいふうぼうをなさっています。さいきんではむかしとちがい、おさなごにみられることもなく…しょうじょ、といえるようながいけんとなりました。
…さきのはなしとかんけいのないことを、かたっているとおおもいでしょう。しかし、これらにはおおいにかんれんせいがあります。ひとはあいじょうをもとめるもの。しゅだんはさまざまです。…たとえ、ぐうぜんであった、みずからのこのみのがいけんのかたに、はなしかけるようなおこない…なんぱ、とよばれるそれであっても、ひとつのしゅだんといえましょう。…しかし。



「おい、あの子可愛くね?」


「あー…あの紫の髪の?…幼くねえか?」


「多分16くらいだろうなー。うわ、目クリクリしてるわ」


「お前ロリコンかよ」


「ちげえし」




…かのじょのこと、となるとはなしはかわってくるのです。
げひん、とひょうげんするのがただしいような、そんなわらいかたをなさるかれら。しせんのさきのかのじょはぼんやりとしたひょうじょうで、たいみんぐわるく、ひとりたっています。ちかくをみわたしても、ちょうどだれにもおりません。ああ、わたくしがのみものをかいにきていて、よかったとこころからおもいます。そして、にんげんのすがたをとっていてよかったとも、こころからおもっております。



「とつぜんもうしわけございません…しょうしょうよろしいでしょうか?」



いままできづかなかったのでしょう、そっとかたをたたき、にこやかにはなしかければ、いままでかのじょをみていたかたがたはわたくしをしかいにおさめ…かおをまっかにそめられました。もちろん、いままでかのじょをみつめていたかたも。
…このかたがたは、きっとだれでもよろしいのでしょう。かのじょではなくても、だれでも。そんなかたを、かのじょにせっきんさせるわけにはいかないのです。



「たいへんしつれいながら、さきほどからはいけんさせていただいておりました」



さらにほほえみをふかめると、こぞってかおをゆるませられました。げびた、とひょうげんされる、したごころのかたまりのようなそれ。いいようがないふかいかんに、きびしいひょうじょうになりかけますが、ここはぐっとがまんいたします。…ああ、うつくしくありません。



「……あなたがたが、ごらんになっていたかたですが…」




…うつくしいものには、うつくしいものを。あなたがたは、ふさわしくありません。そのきもちがこめて、わらいます。わたくしはただ、わらいます。



「……ぜったいに、ちかづかないでくださいまし。かのじょにおこえをかけられたら、わたくしは」



…そこでやっときづかれたのでしょう、めのまえのかたがたのひょうじょうがかわられました。かおのいろも、あかから、あおへ。



「………あなたがたになにをするか、わかりません」




にこり、と、かのじょたちにむけないえみをむけただけ。それだけで、かれらはにげてしまわれました。なさけないひめいは、わたくしをさらにふかいにさせます。…しかし、かのじょにがいがおよぶまえに、ちっていただくことができたのです。ここはよろこぶべきところでしょう。



「相変わらずえげつねーなぃ、美桜」




…いつのまにこられたのでしょう、はいごからとくちょうのあるくちょうがきこえました。ふりかえると、やはりなかまのひとりがそこにたっております。わたくしは、しょうしょうきびしくなってしまったひょうじょうをかえました。



「おや…かのじょにちかづこうとなさったのです、とうぜんでしょう」




わたくしのことばに、かれはわざとでしょう、くろいかみをゆらしながらみぶるいするそぶりをみせました。



「ったく、そのぜったいれいどだけは喰らいたくないぜぃ。体じゃなくて心が凍るなぃ」


「まったくひどいことをおっしゃいますね…わたくしは、ただほほえんでみせただけにございますよ」




にこり。ただほほえみをむけただけなのですが、かれはかおをひきつられました。おかしくかんじながらまいりましょう、とこえをかけると、すなおにうなずいてくださいました。あゆみのさきには、あいかわらずぼんやりとしているかのじょのすがた。




「おくれてしまい、もうしわけございませんでした」




…むけるえみは、いちばんあまいもの。うつくしいものには、うつくしいものを。いちばんうつくしいかのじょに、わたくしはこころからほほえみました。










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