僕の隣の女の子には、双子の姉妹がいる。
昼休みになると現れる彼女の妹は、最初、友人だと勘違いするほど似ていなかった。
双子の妹なのだと聞いた時はそれはもう驚いた。
双子というのは似ているものだという先入観が合ったからかも知れない。
もしくは、友人の鉢屋三郎とまるで双子みたいに似ていると揶揄されてきたからか。
まるで双子は僕達の方で、彼女達は仲の良い友人、そう言ってしまった方が誰しもが納得するだろう。
隣の席の彼女は、人と話すのが苦手なのか、はたまた人付き合いが苦手なのか、同じクラスの子とも会話らしい会話をしているところを見たことがない。
いつもひとりでそっとまるで息を潜めているようにひっそりと生活している。
隣の席の僕ですら、会話をしたことは高等部入学から1ヶ月経ったというのに片手で足りてしまう程だろう。
妹の方は彼女とは真逆で、いつも友人に囲まれ、楽しそうに輪の中心にいるのを同じクラスの三郎に聞いたし、僕自身も良く目にしていた。
別のクラスの妹との方が隣の席の彼女より会話した事が多い。
不思議だ。
不思議といえば、彼女はどこのクラスにでもいるような地味であんまりパッとしないような子なのかと思えば、そうでもない。
彼女は勉強が良くできた。
先生に指されてもスラスラと答えを返し、小テストの点数も良いようだ。
それならば、がり勉タイプの地味な子かと思えば、彼女はどうやら運動神経も良いようで……放課後、風を切るような音と共に叩きつけられる音が静かな体育館に響いて僕は目を丸くさせた。
綺麗に決まったアタックに、バレー部の面々も体育館の2階で暇潰しに、と覗いていた観客達は皆一様に、固まっていた。
その中で、ナイッキー!! と歓声を上げる彼女の妹は、嬉しそうに、そして誇らしげに手を叩いた。

「すっげ…」

僕の隣で見ていたハチが、ポツリと呟く。
僕はそれに無言で頷きながら、視線は彼女と彼女の妹を交互に追っている。
バレー部の子達が我に返ったように、彼女……ではなく、妹の方に話しかけている。
彼女の方はといえば、その様子を遠目に見ながら自分が相手コートに叩き込んだボールを拾い上げ、手首を捻りクルリと回す。

「…今度はサーブしてみてくれる?」

バレー部の主将なのだろうか、足に包帯を巻いている上級生に促されると、彼女はサーブラインまで移動すると、一度バシンとその場で試すようにボールをバウンドさせ、それから前方に軽く放ると、あろう事かジャンプサーブを余裕とも見れる動作で綺麗に決めていた。

「女子の威力じゃねー!!」
「てか女子のサーブって、あんなんだったっけ!?」

一緒に見にきている勘右衛門とハチが興奮して話してるいるのを聞きながら、僕は反対の隣で無言でずっと彼女の様子を見ているもう1人の友人に視線をやれば、彼は、瞬きを忘れたように彼女を見ていて、その口角が僅かに上がっていて驚いた。

「三郎…?」
「妹の方は音痴で、てんで運動駄目なのに……本当に似てねー双子だな」
「そうだね」

頷く僕と、三郎の視線があうことはなかった。
それはとても珍しい事だったが、そんな三郎の様子に気付いてるのは僕だけのようだ。

時は数分前まで遡る。
HRが終わって放課後になった教室内は騒がしい。
図書委員の僕は今日は委員会がないから三郎達とどこがで遊んでから帰ろうかと思いながら鞄に教科書やノート類を机から移していると、勢い良く教室のドアが開いた。

「行くよー! 準備出来た!?」
続いて教室内に響いた声に、すぐに彼女の妹だと気付くと彼女がソッと息を吐いて「早すぎ…」とポツリと呆れたように呟いた。
彼女のドアへ向けられていた視線が手元へ戻る。

「早く行こう! あたし、楽しみすぎて!」

彼女の席の前に駆け寄って来た妹は、急かしながらも興奮を抑えきれないようで声が大きい。

「どこかに遊びに行くの?」

思わず口を出た問いに、妹は視線を彼女から僕へ移すとにっこりと笑う。

「違うよ。バレー部に行くの!」
「バレー部? バレー部に入部したの?」
「ううん、運動は得意じゃないからあたしは見学だよ」
「ん? 一緒に見学するんじゃないの?」

終始可愛らしい笑顔の妹の言葉に僕は首を傾げた。

「お姉ちゃんの勇姿を見学に行くんだよ!!」
「え?」
「お姉ちゃん、今度の練習試合の助っ人で、試合出るから!」
「…えぇ!?」
「──違うだろ。何もまだ決まってない」
「絶対決まってるよ! 大活躍間違いなしだよ!」
「……その自信はどこから出てくるんだ」

呆れたように溜め息吐いて、彼女は立ち上がる。
肩にスクールバックを掛け、椅子を直すと僕に視線が移る。

「…行くよ」

しっかりと視線は合ったのに、彼女が僕に話しかけることはなく、妹を促して歩き出した。

「待って! あ、不破君も良かったら見に来てね!」
「え、あ…うん」

にっこりと笑顔でポンと肩を叩かれて、思わず心臓が跳ねた。
彼女達と入れ替わるように現れた三郎に、顔をのぞき込まれて我に返る。

「雷蔵、ぼーっとしてどうした?」
「あ、三郎…今……」

隣の席の彼女と妹の話をすれば、途端に面白そうだとニヤリと笑い、集まってきた八左ヱ門達とバレー部が練習している体育館へ向かうこととなった。


「中学でバレーやってたのかな?」
「だろうな。素人の俺達が見てたってうまいの分かるし」

次はレシーブ、と言われてバレー部の部員のアタックを拾った彼女のボールは、アタックの勢いを殺して綺麗にセッターのいる場所に返った。
セッターは、返ってきたボールに恐らく習慣で反射的にトスを上げ、それを彼女は相手のコートに叩き込んだ。

「ナイッキー!!」

妹の声が体育館に響いた。
そんな妹に彼女は振り返って、苦笑を浮かべた。

「勉強も出来て、運動神経も良くて…顔もまあ悪くはない。ハイスペックだな」

兵助の声に、彼女を目立たないただの地味で人付き合いの苦手な子だと思っていた僕は静かに頷いた。

(天才っているんだな…)

「次、ブロックいける?」

先輩の問いに、彼女は静かに頷いた。
バレー部のメンバーの目が、良い戦力を得たとばかりにキラキラとしていた。
それに気付いているのか、本人はどこか気怠げにアタッカーのボールをブロックしてみせた。















(第三者の見解)



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