うちの学年には、名物がある。
一つ上の先輩にもそれは言えるのだけれど、というか、私が通う学園は個性的な連中ばかりなわけだから、名物は沢山あるといえばあるのだが、それは今は置いておく。
うちの学年では、全く似ていない双子と双子のように似ている他人…という4人の人物が今注目されている。
その似ていない双子の片割れは、私のクラスメートである。
だが、私はちゃんと話したことはない。
挨拶を数度したくらいか。
彼女は、小中高大学とエスカレーター式のうちの学園には珍しい外部からの中途入学で、クラスでは注目を浴びていた。
人当たりのよい彼女は、すぐにクラスに馴染んだ。
入学から1ヶ月程経った今では、まるで小等部から居たかのようだ。
彼女の周りには男女問わず人が居て、いつでも楽しそうな声が溢れている。
そんな感じで、うちのクラスでは彼女に好意を持つ者が出始めていた。
かく言う私は、あまり彼女に良い感情は持ち合わせて居なかった。
何故なら、私の大好きな友人が、彼女のことを意識しだしてしまったからだ。
そう、名物に含まれている双子のように似ている他人の片割れである、私の友人が、そんな彼女に好意を持ってしまったようなのだ。
本人に直接聞いたわけではないが、ずっとそばにいる私にはすぐわかった。
友人の名は、不破雷蔵。
そして、何を隠そう私とそっくりな容姿をしている赤の他人…いや、親友である。
私も名物の内の1人というわけだ。

「さーぶーろー」

突然名を呼ばれて、私は宙に彷徨わせていた視線を声の主に移す。

「…何だ?」
「何だって、お前…」
「ボーッとしてどうしたの?」
「三郎がボーッとするなんて珍しいね」
「明日は雪が降るのだ」

小等部からの腐れ縁の友人達が、口々に好き勝手に言うので、私は溜め息を吐く。

「…本当に、どうしたの?」

先程私が思考を巡らせていた雷蔵が、心配そうな顔で私の顔を覗き込んできた。
なんて、良い奴なんだろう。
さすが私の親友だ。

「考え事してただけ」

自然と緩む表情で返せば、雷蔵は安心したかのようにホッと息を吐いた。
後の外野は何を考えてたんだか、とかエロいことか、とか、それはハチのことなのだ、とかうるさかったが、まるっと無視だ。

「雷蔵はさ…」
「うん?」
「あ―――…やっぱいいや。今のなし」

純粋な瞳で雷蔵が見つめてくるから、口に出そうとした言葉が喉に引っかかって出せなかった。
それに、雷蔵はアイツが好きなのか、なんて聞いて、そうだよ応援してくれる?なんて返されたら、立ち直れない。
雷蔵の一番は私であって欲しいなんて、言えるわけがない。
雷蔵に依存している自分を守るために私は口を閉ざした。
でも、雷蔵には誰より幸せになって欲しい。
雷蔵の隣は私の場所。
あんな女が雷蔵の隣を私から奪うなんて断じて阻止したい。
雷蔵の応援はしたくないけど、雷蔵が悲しむのは嫌だ。
そんな矛盾している感情を押し込むように、手に持っていた昼食のパンにかぶりついた。

「途中まで言いだしておいて気になるだろ、言えよ三郎」
「お前に言った訳じゃないし、気にすることはない」
「何だよ、お前って本当に雷蔵にばっか良い子チャンだよなー」
「違うな。私はお前以外に良い子チャンなんだよ、八左ヱ門」
「ひっでえ!」
「三郎にハチ如きが口で勝てるわけないでしょ」
「勘右衛門が一番ひでえ」
「三郎、雷蔵の癖が発動してるのだ」
「え?」
兵助に促され雷蔵をみれば、首を傾げてうんうん唸っていた。

「聞くべきか聞かないべきか…」
「ら、雷蔵?」
「さっきの三郎が言いかけたの、聞こうか聞かないでおくべきかで悩んでるんじゃね?」
「そーだろうねぇ」

雷蔵に悩み癖があるのは昔からなので、慣れているためか八左ヱ門も勘右衛門も兵助ものほほんとしている。
かく言う私といえば。

「雷蔵がっ、私の為に悩んでくれてるなんてっ」

優しい親友に感動していた。

「───三郎って…」
「雷蔵が絡むと気持ち悪くなるのだ」
「兵助、お前は本当に容赦ない言い方するよな」
「本当のことなのだ」
「んー、というよりもあれは──…」
「勘右衛門?」
「あ、雷蔵が寝そう」
「え!?」
「わー! 雷蔵寝るなー! 昼飯食いっぱぐれるぞー!」

八左ヱ門の叫び声を聞きながら私達は笑い合う。
気の置けない友人達との和やかな日常。
そんないつもの風景に、新たに加わるものが出来るとはこの時の私は知らなかった。















(新しい風が吹こうとしている)



← →