宴会が行われている大広間に入る前に、杖を一振りして泥と血を洗い流してキレイに整えてから、アスカは最後に自分の眼の色を変えてハリーと互いに身嗜みの確認をしてから、大広間の扉を開いた。
これまで何度かホグワーツの宴会に参加したハリーだったが、こんなのは初めてだった。
大広間に集まるみんなはパジャマ姿で、その表情は一様に明るかった。
大広間に現れたハリーとアスカの姿に、騒がしかった大広間は一度静まり返ったと思ったが、次の瞬間には歓声が爆発した。
グリフィンドールのテーブルに歩いていく道中、次から次へと伸びてくる手や掛けられる声にもみくちゃにされながら、ハリーとアスカはなんとか辿り着いた。

「ハリー、ベル!!」

辿り着いた瞬間、勢いよく抱き疲れてアスカは慌てて倒れないように足に力を込めて踏ん張った。
腕の中に飛び込んできたハーマイオニーは喜色満面で、あの日ベルが先見で視た石になった姿とは大違いだった。

「貴方達が解決したのね! やったわね!」

ぎゅう、と抱きしめ返して、アスカも笑顔になった。

「無事でよかった……ハーマイオニー」
「馬鹿ね! それはこちらのセリフだわ! あなた達を待ってる間に聞いたわよ!? ―――ごめんなさい、ベル……私、もっと早くあなたに素直に謝ればよかったのに」
「ううん、あたしだって…。ごめんなさい、ハーマイオニー」

アスカとハーマイオニーが仲直りして、ハリーとロンもニッコリした。
ハーマイオニーが医務室に置いてあったアスカの伊達メガネを取り出すと、アスカは喜んですぐに掛けて、「やっぱり眼鏡があると落ち着く…」とホッとして言えば、3人が笑った。
それから、グリフィンドールの面々にも代わる代わる大歓迎されたハリーとアスカは、特にハリーにとっては嬉しいことばかりで、どれが一番嬉しいのか自分でもよくわからなかった。
ジャスティンが、ハッフルパフのテーブルから急いでハリーのところにやってきて、疑ってすまなかったとハリーの手を握り、何度も何度も謝ったこと。
ハグリッドが明け方の3時30分頃に現れて、ハリーとロンの肩を強くポン、と叩いたので、2人ともトライフル・カスタードの皿に顔を突っ込んでしまったこと
ハリーとロンが、それぞれ200点ずつグリフィンドールの点を増やしたので、寮対抗優勝杯を2年連続で獲得出来たこと。
マクゴナガルが立ち上がり、学校からのお祝いとして期末試験がキャンセルされたと全生徒に告げたこと―――これに関しては、ハーマイオニーが「えぇっ、そんな!」と叫んだので、ハリーはロンとアスカは、3人で顔を見合わせて笑った。
それから、ダンブルドアが「残念ながらロックハート先生は、来学期に戻ることは出来ない。学校を去り、記憶を取り戻す必要があるから」と発表したこと。
かなりの数の先生が、この発表で生徒と一緒になって歓声をあげた。
楽しそうなハリーの傍で、アスカもまた、たくさんの声に「おかえり」と声をかけられ、その度に笑顔で「ただいま」と返していた。
双子には左右からハグを受け、続いて頭をわしゃわしゃと撫でられ、苦笑いしながら乱れてしまった髪を直していると、ハッフルパフのテーブルからわざわざ来てくれたセドリックとニコルに声を掛けられ、相変わらずのニコルに笑わされた。
好奇心旺盛な双子が、通訳してくれとせがむので、双子とニコルの会話を手伝ったが、面白い事が大好きな双子はニコルの事を気に入ったようだった。
ニコルに新しい友達が出来たのではないかと思い、嬉しそうにしているセドリックと笑いあった。
宴会は楽しかったのだが、ただ、宴会の最中ずっと教職員のテーブルから突き刺さる視線を受けていて、アスカは怖くて見ることが出来なかった。
だけれど、大切な人を喪う恐ろしさを自身も知っているアスカは、不器用な友人を無下にすることも出来ず、宴会が終わった後、幸せな眠りで静まり返ったホグワーツを1人で地下の魔法薬学の教授に与えられた部屋へ訪れることにした。
ドアの前で、一度深呼吸してからいつものリズムでノックすれば、寸の間の静寂の後、勢いよくドアが内側から開かれた。
思っていたよりも数倍勢いよく開いたので、アスカはビクリと肩を揺らして固まったが、お構いなしに伸びてきた腕がガシリとアスカの手を掴んで部屋の中に引き入れた。
引っ張られたアスカは、次の瞬間には魔法薬の香りに包まれていた。

「セブルス…ただいま。心配かけてごめん」「無事に帰ってきたなら構わん」

構わない、といいながらも、抱きしめる腕の力が若干強くなったのを感じて、アスカは笑みを溢し、セブルスの背中に腕を回し、ポンポンと宥めるように撫でた。

「―――さて、それで? 何があったか話すまでは帰さんぞ」
「はいはい。紅茶は出してくれるんでしょうね?」
「お前の好きなだけ淹れてやろう」

しばらくして落ち着いたのか、セブルスの腕から解放されたアスカは、いつものソファーに座ると、セブルスが淹れた紅茶を飲みながら、事の一部始終を話した。
怒鳴られるのでは、と危惧していたアスカだったが、セブルスは思っていたよりずっと穏やかで、アスカは安心した。





夏学期の残りの日々は、焼けるような太陽で朦朧としているうちに過ぎていった。
ホグワーツ校は正常に戻ったが、いくつか小さな変化があった。
『闇の魔術に対する防衛術』のクラスは全てキャンセルになり、ルシウスは理事を辞めさせられた。
ドラコは学校を我が物顔でのし歩くのをやめ、逆に恨みがましく拗ねているようだった。
一方、ジニーは再び元気いっぱいになり、それまで以上にアスカに懐き、アスカの姿が見えるとその度に嬉しそうに手を振ってくる程になった。
双子は、そんなジニーを嬉しそうに、微笑ましそうに見ていたが、それと同時に「ベルに妹を盗られた」「幸せにしてやってくれ」等とふざけてくるので、にっこり笑って魔法で口を黙らせた。
無事にハーマイオニーと仲直りすることが出来たアスカは、ハリーに聞かせた話をロンとハーマイオニーに話し、今まで話せなかった事を謝った。
ロンは、アスカが未来を視る事が出来ると分かって大興奮だったが、まだコントロールは出来ないのだと知るとガッカリした。
隠している秘密を、2年目にしてもうほとんど話すことになってしまったが、逆にコソコソする必要がなくなったと前向きにアスカは考えることにした。
あまりにも速く時が過ぎ、もうホグワーツ特急に乗って家に帰る時がきた。
ハリー、ロン、ハーマイオニーとアスカ、それからジニーと双子で1つのコンパートメントを独占した。
夏休みに入る前に、魔法で使うことを許された最後の数時間を皆で十分に楽しんだ。
『爆発スナップ』をしたり、双子が持っていた最後の『花火』に火を点けたり、互いに武器を取り上げる練習をしたりして過ごし、ハリーはアスカも驚くほど武装解除術がうまくなった。
キングス・クロス駅に着く直前、ハリーはふとあることを思い出した。

「ジニー、パーシーが何かをしてるのを見たよね? パーシーが誰にも言わないように口留めしたって……どんな事?」
「あぁ、あのこと」

ハリーの問いに、ジニーはクスクス笑った。

「あのね―――パーシーに、ガールフレンドがいるの」
「なんだって?」

ジニーの口から飛び出た衝撃的な内容に、コンパートメント内の全員が固まり、フレッドはジョージの頭の上の本を一山落とした。

「レイブンクローの監督生、ペネロピ―・クリアウォーターよ。パーシーは夏休みの間、ずっとこの人にお手紙書いてたわけ。学校のあちこちで、2人でこっそり会ってたわ。ある日、2人が空っぽの教室でキスしてる所に、たまたま私が入っていったの。ペネロピ―が襲われた時―――パーシーはとっても落ち込んでた。みんな、パーシーをからかったりしないわよね?」

ジニーが心配そうに聞いたので、アスカは安心させるようにコックリ頷いて見せた。
だが、楽しいことが大好きな双子は、そういうわけにはいかないだろう。

「夢にも思わないさ」

そう言うフレッドは、まるで誕生日が一足早くやってきたという顔をしていたし、

「絶対しないよ」

ジョージは言葉とは裏腹に、ニヤニヤ笑いを隠しもしていなかった。

(ご愁傷様……パーシー)

アスカは内心、ひどくからかわれる事になるであろうパーシーを思い、合掌した。
そうこうしている内に、ホグワーツ特急は速度を落とし、とうとう停車した。
ハリーは羽根ペンと羊皮紙の切れ端を取り出し、ロンとハーマイオニー、アスカの方を向いて言った。

「これ、電話番号って言うんだ」

番号を3回走り書きし、その羊皮紙を3つに裂いて3人に渡しながら、ハリーがロンに説明した。

「君のパパに去年の夏休みに、電話の使い方を教えたから、パパが知ってるよ。ダーズリーの所に電話くれよ。OK? あと2カ月もダドリーしか話す相手がいないなんて、僕、耐えられない……あ、ベルは電話の使い方分かるかい?」
「うん、分かるよ」

アスカが頷くと、ハリーはにっこりした。

「でも、貴方の叔父さんも叔母さんも、貴方のこと誇りに思うんじゃない? 今学期、貴方がどんなことをしたか聞いたら、そう思うんじゃない?」
「誇りに?」

汽車を降り、魔法のかかった柵まで人波に混じって歩きながらハーマイオニーが言うと、ハリーは驚いた。

「正気で言ってるの? 僕がせっかく死ぬ機会が何度もあったのに、死に損なったっていうのに? あの連中はカンカンだよ……」
「……ねぇ、ハリー? いざという時は、あたしの時計塔においで。部屋なんか腐るほどあるから、住んだって構わないよ―――ちょっと隔離されちゃうから、閉鎖的ではあるけど…あたしが許可すれば割と自由に過ごせるし」
「え!?」

アスカがふと思いついて口にした内容に、ハリーは動きを止めた。
忽ち後ろを歩いていた人にぶつかってしまって、謝りながらまた歩き出したけれど、それでもまだ驚いているようだった。

「大丈夫? そんなに嫌だったとは……まあ、あたしと2人きりじゃ変に気を遣うことになっちゃって逆に窮屈か……でも、どうしようもなくなった時の選択肢の1つとして、覚えておいてくれたら嬉しいよ」
「嫌なわけないよ! 吃驚しちゃっただけで、すごく…すごく嬉しいよ!」
「本当? 良かった…じゃあ、もし助けが必要になったときは、コレを使って」

嬉しそうに笑って、アスカは、魔法で作っておいたビー玉サイズの球体の石をハリーに渡した。
ハリーの掌の上でコロリと転がる石は、赤く半透明で、中心には家紋のような不思議な紋章が見えた。

「それ、簡易的に時計塔に飛べる魔法アイテム。地面とかに叩きつけて割れば使えるから……もしもの時は、躊躇なく使って」
「ありがとう、ベル…すごいよ!」
「なんだよ、ハリーばっかり。僕達は君ん家に招待してくれないの?」

大事そうに手の中に握りこんだハリーに頷くと、ロンが不満そうに唇を尖らせた。

「馬鹿ね、ロンのママや家族は、ロンを窓に鉄格子をかけて軟禁したり、いじめたりしないでしょう?」
「そうだけど、僕だってベルの家に行ってみたいよ」

ハーマイオニーに窘められたが、ロンは拗ねているようだった。

「ふふ、そんなに楽しいことなんてない場所だけど、ロンとハーマイオニー、勿論ハリーも、今度招待するよ」

クスクス笑ってアスカが言えば、ロンもハーマイオニーも嬉しそうに笑って頷いた。
そして4人は、一緒に柵を抜け、マグルの世界へ戻って行った。
















Witch of foresight 〜秘密の部屋〜
END