ひみつの贈り物





満月の夜が近づく度に友人達を、彼女を思い出す。
満月の一週間前から飲み出す薬のせいもあるのかも知れない。
最近はダンブルドア先生から送られてくるのだが、彼女が作ってくれたものに酷似している気がする。
酷い味なのは変わりないのだが、幾らか柔らかく、優しい感じがした。
学生の頃、魔法薬学が苦手な私の為に彼女が作ってくれたものはとても飲み易かったのだ。
それと同じように飲み易い。
だが、そんな筈はない。
彼女はもう亡くなってしまったのだ。
1人きりの部屋でふと溜め息を吐く。

「――感傷に浸ってる場合じゃない。仕事を探さなきゃ」

己の病気のせいで、定職に就く事は難しい。
毎月一週間程使い物にならなくなる身体が恨めしい。
怠い身体を起こす。

『ねぇ、リーマス。あたしが将来お店を出したら、貴方に働いて欲しいの』

彼女の事を考えていたからだろうか、学生の頃の彼女の言葉が不意に甦る。

『君の店で? でも、僕は毎月働けなくなる日があるんだよ?』
『あら、リーマスが動けない間は、うちのお客様じゃない。毎月うちで薬を買ってくれるんでしょう? あたしの薬は飲み易いって言ってくれたのは嘘だったの?』
『う、嘘じゃないけど…』
『けど?』
『―――友達からお金をとるのかい?』
『ふふ、店員価格のお給料天引きにしてあげる』
『ははは。そうか、それは良いね』

是非、働かせて貰うよ―――…そう返した時、彼女は嬉しそうに、ほっとしたように、微笑んだ。
優しい人だった。
泣きたくなるほど、嬉しかった。
実際は、彼女はお店を持つことは叶わなかったが、それでも今でも思い出す度に胸が熱く、苦しくなる。
会いたい、と思ってしまう。
抱き締めたい、と思ってしまう。
あぁ、自分は今でも変わらず彼女が好きなのだと――…愛しているのだと、思い知らされる。
満月が近付く度に色濃く、満月が訪れる度に色強く、彼女を想う。
想っては、泣きたくなるのだ。

『リーマス』

彼女が私を呼ぶ声が、柔らかく微笑む顔を、今でも覚えている。

「    」

ソッと呟いた彼女の名に、目頭が熱くなった。

いつか、私が死んだら君にまた会えるだろうか。
赤い髪の友人と、黒い癖毛の友人と、くすんだ金髪の友人と、皆で私を迎えてくれるだろうか。
あぁ、そうならばいい。
その時は、私の大好きな笑顔で、声で、迎えて欲しい。
そう、願う。

「―――おや?」

カタン、という音に視線を窓にやれば、梟が一羽、窓枠にとまっていた。
足に、瓶をくくりつけられているところからして、今日の分の薬を運んで来たのだろう。

「ありがとう。君は、ホグワーツの梟なのかい?」

怠い身体で立ち上がり、薬を梟の足から受け取り問えば、梟はホウと短く鳴いた。
肯定だと勝手に解釈して、リーマスは緩く微笑む。

「今の薬学教授はセブルスだったね。彼の腕は確かだけれど、私に薬を送ってくれるとは考えにくいな」

何せ、犬猿の仲のスリザリンとグリフィンドールの自分達であったし、更に、彼とは恋敵でもあった。
卒業する時も、睨まれたっけ…と思い出して苦笑いを溢す。

「誰が、送ってくれるんだろう。君は、知ってるかい?」

再度梟に問えば、梟はホウと先程と同じように鳴く。
どうやら知っているようだとやはり勝手に解釈して、私は梟の羽を労るように撫でる。

「そうかい。いつか、会ってお礼が言いたいな」

ホウ、と梟は一つ鳴いて、翼を広げた。

「帰るのかい? 送り主に宜しく伝えておくれ」

梟は翼を1、2度羽ばたかせ、飛んで行った。

いつか、訪ねてみよう。
出来れば会ってお礼が言いたい。
きっと、彼女に似た優しい心の持ち主なのだろうと思う。

空を見上げれば、まだ日が落ちるには幾らか時間がありそうだ。
私は、明日また届くだろう薬を運んでくる梟に、手紙を届けて貰おうと羽ペンを取った。















(顔も名も知らぬ者へ、手紙を書く)


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