くのたま達は元気だった。
一日の授業を終え、シナ先生の雷を受けても尚、屈しない好奇心に従い、千里の部屋に続々と押し掛けた。
その勢いに若干気圧されながら、千里は冷静に集まってきたくのたまの数を数える。

「千里さん、お約束通りお話を聞かせて下さい!」
「…それは構いませんが……私は自身の事を話すのに慣れていないのです。何をお話すれば良いでしょうか?」

数えている途中で話しかけられ、無表情のまま首を傾げる。

「はい! では、今までどのような任務をされて来たのですか?」
「任務、ですか。私が請け負う仕事は簡単なものが殆どですので、皆さんの参考になるかは分かりませんが…」

それでも良ければ、と添えてから千里は話し始めた。
くのたま達はみな、静かに、だが話の途中で息をのんでみたり、小さな声をあげたりと聞き上手であった。
普段口数が少なく、無表情の千里の淡々とした辿々しい話も、くのたま達が聞けば、それらしい体験談になるのだから、千里は内心感心しながら話を続けた。
現在のくのたま達も情報収集は得意のようだ。
一通り受けてきた任務の内容を、城の名前や情報を避けて話し終えた千里は、くのたまの誰かが淹れてくれたお茶で喉を潤して一息吐く。

(こんなに話したのはいつ振りだろう…少し、疲れたな)

慣れない事をした千里は、千里の話に興奮して互いに話をはじめているくのたま達に気付かれないようにソッと息を吐く。
くのたま達は、千里に化粧を教わりたいだとか、男装を教えて欲しいとか、色の効果的な使い方だとかをきゃいきゃいと楽しそうに話し、千里に質問してくるので、千里はそのたびに自分ならば、または自分がしているやり方を口答するのだが、化粧や男装、変装等に関しては、やってみせて教える方が分かり易い。
そう思うのだが、目の見えない今の千里では、上手く出来る自信など無いため、申し訳なさが頭を出す。

「千里さん、目が治ったら是非私に見せて教えて下さいね!」
「あー、ずるーい爽子! 千里さんっ、私も、私にも教えて下さい!」
「もうっ、二人とも、皆で教わるのよ! 抜け駆けなんてさせないからね!?」

千里は、自分が居た頃のくのたま達と変わらない仲の良さそうなその様子に、懐かしさを覚えふと口元を緩めた。

「あ、千里さん今笑った…」
「──…皆さんが可愛らしくて、つい……お気に障りましたら申し訳ありません」
「かっ…!」
「可愛らしいだなんて!!」
「千里さんったら!」
「? すみません?」

くのたま達は皆顔を赤くさせながら、色はこうやって使うのか、と実際に学んだのであった。

「あ、そういえば、千里さんから見て利吉さんってどうですか?」
「……山田殿?」

突然思い出したかのような質問に、意図が分からず千里は内心首を傾げる。

「はい! 利吉さんってくのたま達からとっても人気あるんですよ! 気になります!」
「あぁ、確かに彼は女性にもてそうですね。──ですが、私が彼と仕事をしたのは一度きりですので、皆さんの方が私よりお詳しいと思いますよ」
「利吉さんと一緒にお仕事!」
「すごいです! 是非お聞きしたいです!」
「あ、でも…話し辛い……ですよね」

山田利吉との任務は、今回千里が忍術学園に厄介になる事になった起因だ。
千里が負傷し、視力を失った話をするのは憚れると思ったのか、口にしてしまったくのたまはもちろん、周りのくのたま達から気まずい雰囲気が醸し出される。

「お気になさらず…この目や怪我は、私が未熟故に負ったもの。気になるのであれば、お話致します。ご厄介になっていますし、その原因を知っておきたいという思いも分かりますから」
「千里さん…私達は別に──…」
「もうすでにご存知かも知れませんが…」

千里は、温くなっている湯呑みを両手で包み、ソッと話し出した。
そして、自分は早くここを出なければならないと意識を強めたのであった。
















(この暗い目で生きていく術を身につけよう)


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