「慰霊碑?」

本日は学級委員長委員会の活動日である。
掃除当番で遅くなるという他の委員達をお茶菓子を前にお預け状態で、良い子でお茶を飲みながら待っていた五年い組の尾浜勘右衛門は、五年ろ組の鉢屋三郎に突然聞かれた問いに、まん丸な目をさらにまん丸にしてきょとんとする。

「何それ。学園内にそんなものあった?」

慰霊碑。
それが何の為のものか知らないわけではない。
だが、そのようなものを学園内で見たことが勘右衛門はなかった。
けれどもよくよく考えてみれば、ない方がおかしいのかも知れない。
忍術学園は、死と隣り合わせの忍者を育成する学舎なのだから。

「裏々々々山にあるらしい」
「へぇ〜」

聞いてはみたが、慰霊碑の意味を知っていれば、不必要に近寄るべきではないだろうという思考が、返事を素っ気なくさせた。
三郎はそんな勘右衛門の反応に不満そうにムッと顔を歪める。

「興味ないのか?」
「興味って……だって慰霊碑なんでしょ? 面白半分で近付いて良い場所じゃないじゃない。だいたい、面白くもないよ」
「へぇ〜」

三郎は先程の勘右衛門と同じ台詞を口にするが、その口振りはやけに挑戦的だ。
勘右衛門の顔が訝しげに変わる。
変装名人と名高い三郎が常として顔を借りている不破雷蔵までとはいかないが、勘右衛門もこの鉢屋三郎という男との付き合いは長い方だ。
何かを企んでいる時の顔くらいすぐにわかる。
勘右衛門は、面倒事には関わりたくない、と「あ、そうだ!」とわざとらしくないように声をあげた。

「ハチなら知ってるかも! 生物委員会委員長代理だし」

勘右衛門は良い笑顔で、同学年で友人でもある竹谷八左ヱ門に面倒事をまるっと押し付けることにした。

「ハチか……確かに知っていてもおかしくないな」
「そうでしょ? ハチに聞いてみなよ」

三郎が顎に手を宛て、ふむ、と納得しながら何かを考えている側で、勘右衛門は笑顔の奥で、良し!、と拳を握る。

「確か今日は生物委員会は活動ないって言っていたから暇だろうし、行ってくれば?」
「んー、そうだなぁ」

勘右衛門がニッコリと微笑み、促せば、三郎は頷いた。

「慰霊碑の場所なら後で聞くさ。それより、面白い話を教えてやるよ」

語尾でニヤリと口角を上げた三郎に、勘右衛門は自分のなすりつけ作戦を見抜かれていると悟り、小さく息を吐いた。

「―――分かった。聞くよ」

観念したように頷く勘右衛門に、三郎はそうこなくっちゃとしたり顔で口を開いた。





「…あ〜! 知ってる知ってる。場所分かるぜ」

そうして、三郎と勘右衛門は委員会活動終了後、竹谷八左ヱ門の部屋を訪ねた。
慰霊碑の場所を知っているかとの三郎の問いに、竹谷は寸の間考えた後、ポンと手を打った。

「そうか! さすがハチだ! じゃ、明日の放課後な」
「じゃ、放課後ね」

ポン、ポン、と左右の肩をそれぞれ三郎と勘右衛門に叩かれ、竹谷は、は?、と固まる。
呆然と固まる竹谷を他所に、三郎と勘右衛門はさっさと部屋から出て行ってしまった。

「…………俺に拒否権は無しか?」

詳しい話も聞かされず、ただ質問だけして答えを得ると、一方的に約束を取り付け、彼らは出て行った。
竹谷の許可も予定も気にしている様子はない。

「あ、あんまりだ…」

竹谷はガックリと項垂れた。
だがしかし、例え散々な目にあったとしても、大事な仲間達との約束を無下にすることも出来ないのが竹谷八左ヱ門である。
おそらく明日の放課後は、狼の散歩がてらに慰霊碑まで案内することになるだろう。















(あの女の正体が分かるかも知れないんだ……それでも、興味無いか?)

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