ピクリ、と指先が動いた。
次いで、閉じられている瞼の奥で眼球が動いているのか、瞼がゆっくりと蠢く。
少年と伊作を見送り千里の眠る部屋に戻ってきた利吉は、思わず側に駆け寄る。

「千里さん!?」

声に応じるようにふるりと睫毛が揺れ、ゆっくりとその目が開いた。

「千里さん!」
「…………や…まだ…殿……?」

その掠れた声に、利吉は涙が出そうになった。

「私…は、まだ夢をみているのでしょうか……何故…」
「夢ではありませんよ。ここは忍術学園です。私が倒れていたあなたをここへ運んだんです」
「……忍術学園…」

千里は、利吉の言葉を確かめるように呟き、辺りを寝たまま見渡す。
次いで、起き上がろうとした千里を慌てて傷口が開くから動かないでと制し、利吉は医師を呼んで来ますと行って部屋から飛び出すようにして出て行った。
だが、千里はその姿を目では追えなかった。
ただ、気配が遠くなるのを感じて、そっと自分の手を目の前に持っていく。
感触から、あの子から貰った御守りだと分かるが、己の血で汚れたその様は見る事が出来ない。

「困ったね……どうやら目が見えないようだ」

どこか自嘲気に歪んだ笑みを浮かべ、千里はそう一人溢した。
視界に広がる真っ暗な世界。
目を開けた筈なのに、利吉の声が聞こえ、不思議に思い独り言を呟いたのだが、返答があり、困惑して再度呟けば、やはり利吉の返事があった。
そして、驚いた事に自分は今忍術学園に居るという。
辺りを見渡すが、やはり何も見えない。
ただ、鼻をつく薬品の匂いに、医務室にいるのだと気付く。
気配を探れば、利吉の気配を感じるが他にはない。
少し離れた方には居るようだが、この医務室周辺には他に居ないようだ。
気配を消していれば別だが。
起きれば何か見えるかも知れない、と起き上がろうとしたが、慌てた利吉の声と手でやんわりと制されてしまい、千里は身構えも出来ずに触れられビクリと体を強張らせたが、利吉は気付かなかった様で、千里に医師を呼んでくると言って出て行った。
出て行ったと分かったのも利吉の気配が離れて行ったからで、相変わらず視界は真っ暗だった。

「……あのくの一のせい、か」

目の原因を考えて浮かぶのは、千里が刺し違う形になったくの一の事。
事切れる前に「ただでは死なない。あんたも道ずれだ」と言っていたのを思い出し、恐らく苦無に何らかの毒が塗られてあったのだろうと千里は思考を巡らせる。

「面倒な事になった…」

千里は、巾着を持ったまま額に手を置く。
チャリ、と手の内で小銭が擦れた音が響いた。
この目も、今居る場所も、恐らくまだ例の城に狙われているだろう状況も、全て頭痛の種だ。

(そういえば――…)

ふと、千里は自分の頬に触れる。

(私は、今どんな格好をしているのだろうか?)

顔は?、着物は?、と自分の体を触れて確かめる。

(ああ、これは――……バレているのだろうな)

千里は、大きな溜め息を吐いた。

「さて…どうしたものか…」















(あの子の笑顔を見れなくなってしまった…)

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