山田利吉は、焦っていた。
というのも、以前依頼を受けた城が落城したという情報を得たのだ。
その城を落としたという城は、表向きは温和な城として通っているが、裏ではかなり評判の良ろしくない城であった。
何だか嫌な予感がした利吉は、落城されるにあたった動機を探ることにした。
そうして、自分達の失態を知ったのだ。
更に、探っている最中に、その城が忍を探している事も知った。
その探している忍の名に、利吉は戦慄する。

「…千里さん、どうかご無事で―――…!」

共に一度仕事をしただけの仲ではあったが、利吉は千里を存外気に入っていた。
無表情で、利吉の周りの者達に比べて余り口数は多くなかったが、問えばちゃんと返事があったし、その声も耳に馴染んで心地好かった。
沈黙でも苦とは感じなかったし、何より忍として切磋琢磨できる相手だと思った。
そんな相手を、なくすのはいただけない。
その原因が己にもあるならば、尚更だ。

利吉は調べあげた千里を陥れる為の場所へ向かい、全力で疾走した。

だが、一足遅かった。
利吉が山の中で見つけたのは、血にまみれた千里の姿だった。

「千里さん!!」

慌てて側に跪き、その容態を見るが、千里の意識は無い。
出血が酷いのは胸元、左腕に右足、それから小さな裂傷が幾足りか…血が固まっていないことから、刃に血の凝固を妨げる薬が塗られてあったのではないかと思われる。
利吉の表情が険しくなった。
辺りを見回して、もう一人血塗れで倒れている姿を目に止め、目を細める。

(あの様子では、もう事切れているな。…千里さんがやったのか)

恐らく、千里を狙い差し向けられた忍だろうと利吉は思い、すぐに千里に視線を戻す。

「すぐに医者にみせなくては」

利吉は千里を抱き上げる。
その拍子に、千里が握り締めていた何かがポトリと落ちた。
見れば、それは小さな巾着だった。
巾着は破れており、拾いあげれば、中味が手のひらにコロリと出てきた。

「……小銭…?」

小銭が入っていたということは、これは千里の財布だったのだろうか?
それにしては、巾着は血に濡れて更には切られてあり、草臥れていた。
中に入っていた小銭もたったの二枚だけ。
血や切られているのは、この傷を負わされた際になったのだろう。
だが、利吉に次いでの売れっ子忍者の財布がこんなに貧相な筈がない。
お守りにしても、小銭が二枚だけ入っている意味が分からない。

(千里さんにとってはお守りのようなものだということだろうか)

利吉は、手のひらの小銭を巾着に戻し、落ちないように懐にしまうと、再度立ち上がる。

「…彼処なら、きっと助けて貰える!」

利吉は、思っていたよりも軽い千里の体を抱き上げたまま、駆け出した。















(君から貰った、大事なお守り)


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