独占欲の強いウルキオラにとって、井上織姫という恋人の存在は、酷く神経を過剰反応させるものに他ならない。


ウルキオラ以外の男に平気で上目遣いをするし(そのようにウルキオラには見える)、無邪気な笑顔を振り撒いて、それ故に大抵の男はコロッと見とれてしまうのである。




天然、というか。
無自覚、というか。





ウルキオラがいくら束縛の意も込めた注意を施しても、改善される様子はない。


否、それは彼女の魅力でもあるのだが、だからこそ、ウルキオラはそれを守りたいと思うし、他の男には見せたくないと思うのは、至極分かりきったことである。




しかし、そんなウルキオラの心境に、さすがの織姫も気付かない訳がなく、せめてウルキオラの目の前では、と、他の男との絡みを極端に減らしたことも事実である。


そんな彼女の健気な愛情が嬉しかったし、何より望んでいたことであったので、最近ではウルキオラもそんなに周囲に警戒心を持つほど気が立ってはいなかった。





だから、油断した。
周囲の連中にではない、織姫に。ウルキオラは、隣を歩く恋人を横目で見やり、その視線を下に下げる。



ウルキオラの視線の先には、織姫の細長く色白い脚がくっきりと、はっきりと、大胆に露出されていた。










ミニスカート、というものである。いつもは露出の少ない服を好む彼女が、どういうわけか、今日は膝より明らかに短い丈のミニスカートを着用していた。




「あっウルキオラ!あのお店入ろう!」


織姫がウルキオラの服の裾をちょんちょんと可愛らしく摘み、ショーウィンドウの装飾が華やかな店に引き寄せる。ウルキオラは黙ってそれに着いていく。


そこはアクセサリーを取り扱った店で、きらびやかなアクセサリーが店内を彩っていた。


どれも織姫に似合いそうだとウルキオラがブラブラと店内を物色していると、織姫が、



「これ似合う?」



と、己の首元を指した。
そこには織姫の透き通る肌にこれでもかというほど映えた半透明なピンクの薔薇の形のトップがついたネックレスがあり、ウルキオラはそのトップを指で弄ぶ。



「似合っている」


「本当?じゃ買っちゃおっかな」



嬉しそうにレジに向かう織姫についていき、ウルキオラはレジに向かう。



「…円になりまーす」



華やかな店員が告げた金額を財布から取り出そうとする織姫の手を、ウルキオラは制した。



「?」

「払う」



そう言って、財布から現金を取り出すウルキオラ。店員が『ありがとうございました〜』とにこやかに会釈した。

店を出るウルキオラを、織姫は慌てて追いかける。



「ウルキオラ!いいよそんなの、自分で払えるよっ」

「もう払っただろう」

「だから、自分で…」



織姫の言葉を、ウルキオラはその手を握って遮った。振り向いて、言う。



「これは、俺の特権だ」

「へっ?」

「行くぞ」



きょとん顔の織姫の手を取り、ウルキオラは前進する。
ウルキオラの言葉に一瞬首を傾げた織姫だが、その意味を理解し、次の瞬間には幸せそうな笑顔を浮かべていた。



「ウルキオラ」

「なんだ」

「これ、ありがとう」



織姫が首元のネックレスを指した。
ウルキオラは照れ隠しなのか、顔を背けて『ああ』と呟いた。

そんなウルキオラを可愛いと思ったのか、織姫はくすりと笑う。


ウルキオラの中にあった先ほどまでの焦燥は、織姫の笑顔により和らいでいた。この笑顔を独占できるのなら、脚くらい大目に見ることにしよう。そんなことを思いつつ歩を進め、二人は映画館にたどり着いた。


どうやら今日のメインは映画のようで、織姫の好きな芸人が出演するらしく、興味のないウルキオラだったが、その映画について織姫が目を輝かせて楽しそうに話すが故に、この映画館デートになったのである。



上映開始まで時間があったため、織姫はキャラメルポップコーンを買って準備万端で館内に入った。


ちょうど中央あたりの席に並んで座り、上映を待つ。



「この映画ね、芸人さんばっか出るんだって。監督も芸人さんなんだよすごいよね!」



まだ上映されていないというのに、織姫はポップコーンを口に頬張りながら意気揚々と喋る。「だからずっと笑いっぱなしの撮影現場だったって話だよ。あ、ウルキオラも食べる?食べていいよ」



織姫がポップコーンの箱をウルキオラに向ける。ウルキオラは『いや』と断って織姫の顔に目を向け、一度反らして再び驚愕の表情を向けた。二度見である。




「おい……今そんなに食べたら観る前に無くなるぞ」


「ふぇ?」



口いっぱいにポップコーンを頬張る織姫は、ウルキオラの言葉に応答するためポップコーンをゴックンと飲み込み、ニカッと笑った。



「大丈夫だよー。ちゃんとペース配分考えてるし。いちばん大っきいサイズにしたし、ね」



どうやら織姫はLサイズのキャラメルポップコーンを一人で食べ切るつもりらしい。大食いの恋人にやれやれと息をついたウルキオラは、おもむろに席を立った。



「?どこ行くの?トイレ?」

「ああ。すぐ戻る」



『いってらっしゃい』という織姫の声を背中に受け、ウルキオラは劇場を後にした。トイレを済ませ、戻ってきたウルキオラは驚愕の表情で立っていた。ウルキオラの視線の先には無論、織姫がいるのだが、その織姫はというと、見知らぬ男二人と楽しげに談笑していた。

男たちは馴れ馴れしくも織姫の隣に座っていた。



「織姫」


「あっ!ウルキオラ!」

ウルキオラに気づいた織姫が視線をこちらに向けた。それに反応した男たちはウルキオラを見て『彼氏?』と織姫に訊ねる。




織姫は照れ臭そうに『えへへ』と笑いながらウルキオラを紹介しようとウルキオラの服の裾を掴んだ。その拍子に、ウルキオラは席にドスッと座り、仏頂面で男たちと織姫から目を反らした。



「ウルキオラだよ。ウルキオラ、こちら中学の頃の同級生の、檜佐木くんと阿散井くん」



織姫の紹介に、檜佐木と阿散井はウルキオラに軽い会釈をしたが、ウルキオラはというと、二人を軽く一瞥しただけで挨拶はおろかほぼ無反応であった。

ウルキオラのあまりにも無愛想な態度に、二人が『あ?』と額に青筋を走らせたが、織姫が慌てて弁護する。



「ウルキオラ誰にでもこうなの!無口だから誤解されやすいんだけど、優しいんだよ」「へぇ…」



納得いかないという表情の二人だったが、渋々居住まいを正した。



「しっかし偶然だよな、井上。二年ぶりくらいか?」

「そ、そうだねっ。久しぶり!」



織姫はウルキオラの様子を伺いつつも談笑を再開した。ウルキオラは、仏頂面はいつもと同じだが、しかし今はそれに拍車がかかったほどの不機嫌オーラを全開にしていた。





原因はいわずもがな、男二人。
普段なら、織姫がウルキオラの知らない知り合いと出くわしても、それが例え男であろうとも、ウルキオラはこれほどまでに腹を立てることはない。挨拶ぐらいは交わすし、目を逸らすこともない。


しかし、織姫を見る男二人の目。







完全に織姫の白い脚を捕らえていた。






座っているため太ももの柔らかさが視覚で捕らえられるほど分かり、男二人の視線はチラチラと織姫の脚ばかりへいっていた。


特に檜佐木。この男はもう完全に織姫を性的な目で見ている。

でれ〜と鼻下を伸ばし、いやらしい目つきで織姫の太ももに加えて豊かな胸まで視線で堪能している。



ウルキオラの我慢も限界であった。



まさかこの男二人、このまま織姫の隣で映画を観るつもりなのかとウルキオラが睨みを浴びせようとした瞬間、織姫が『あっ!』と声を上げた。



「キャラメルが…落ちちゃった」



→見ると、織姫の白い太ももに、焦げ茶色のカラメルソースが落ちていた。ポップコーンに異常についていたらしい。



「あーやっちまったな」



そう言う檜佐木の目は、しっかりと織姫の太ももを捕らえていた。どスケベな視線でわざとらしい振る舞いをする檜佐木を、ウルキオラは軽蔑の目で睨む。



(…この男……)



腹立たしかった。
男共はもちろんだが、織姫にさえ、怒りを感じる。

自覚が無さすぎる。
自分が狙われているという、自覚が。




織姫、お前は


















「…俺の女だろう」










ウルキオラの呟きに、織姫が『え?』と顔を向けた瞬間、ブザーが鳴り、劇場に音が響いた。







その瞬間、織姫は目の前に黒い影が走ったのを捕らえた。








と、同時に感じる、太ももの温度。






「っ!……ウル、っ…」気づいた時には、ウルキオラは織姫の白い太ももに顔を埋めていて、織姫が零したキャラメルを舐め取るように、舌を這わせていた。




「ウル、キオラっ…!」




ゾワリ、という慣れない感触に、織姫は反応する。

ウルキオラはそのまま、舐めた部分を強く吸い上げた。



「や…ウルキオラ、ってば…」



男二人が、顔面を林檎のように赤く染めてウルキオラと、ウルキオラの行為に嘆く織姫を眺めている。それに優越感を覚えたウルキオラは、パッと身体を起こし、赤面する織姫の肩をぐいっと自分に引き寄せ、そのまま始まる映画に集中した。





「もう…あんなとこであんなこと、やめてね」



映画が終わり、劇場を出た織姫は、未だにウルキオラに肩を抱かれながらうつむき加減に呟いた。

阿散井とひさ木の二人はというと、居心地が悪かったのだろう、映画の途中でそそくさと席を移動したようで、終わった後でもその姿は見えなかった。



ウルキオラのせいで映画に集中できなかった残念さとウルキオラの突然の行為に動悸する織姫。

ウルキオラはその様子を見て、ふんと鼻を鳴らした。



「チンピラを追い払っただけだ」

「チンピラって!……もう、知らないっ」



頬を膨らませ、ぷいっとそっぽを向く織姫の肩をするっと離し、下りエスカレーターに乗ったウルキオラは振り返り、織姫を見上げた。



「まだ分かってないようだな」

「え?」

「自分がどれだけ狙われているのか…どれだけ、俺が苦労してると思ってる」

翡翠の瞳で織姫を捕らえ、ウルキオラはその白い太ももにそっと触れた。



「!ウル…」

「何故こんなものを着てきた」

「へ?」「あいつら二人とも……いや、すれ違う男という男がお前の綺麗な脚を見ていた」

「えっ…」

「腹が立たないわけがないだろう」



綺麗と言われた嬉しさと恥ずかしさ、普段のウルキオラからは聞けないような素直な言葉。そして、真っ直ぐに見つめられる、吸い込まれそうなほど澄んだ瞳。

全てに、クラクラする。








そのまま織姫が固まっていると、ウルキオラは長いエスカレーターを下り、続いて下りる織姫の手を引いた。その勢いで、織姫はウルキオラに引き寄せられ、腰にしっかりと手を回された。

びっくりして顔を上げると、至近距離にウルキオラの顔。



心臓が、高く跳ねる。




「お前に物を与える権利も、お前から与えられる権利も、すべては俺にある」




ウルキオラは、織姫の手首で光るブレスに唇を当てる。織姫の肩がピクンッと反応する。




「分からないようなら、その程度の印では済まさないほど、お前を縛る必要があるが?」



手首にキスをしたまま喋るウルキオラの吐息にゾクゾクする。織姫は自分の白い太ももをチラッと見下ろした。

そこには、白い肌の中に一点だけ、赤く跡付けされた印があり、織姫は必死でそれを手で隠していた。



ウルキオラはその手を取り、印を露わにする。



「一つでは足りないようなら、お前が自覚するまで俺はやめん」


射抜くようなウルキオラの眼力。責められているのに、織姫は不謹慎にも顔を赤くせざるを得なかった。




ウルキオラが嫉妬してる。
ウルキオラが怒ってる。
ウルキオラがあたしに触れてる。
ウルキオラがあたしを見てる。

ウルキオラが ウルキオラが





ミニスカートを履いてきたのは、何事もない、ただの気まぐれだった。
いつも露出の少ない服だから、たまにはこういうのもいいかもしれない。ウルキオラが喜ぶかもしれない。怒るかもしれないけど、今日だけなら……。



と、特別な思いなどなかったのだが、案の定、怒られている。




しかし、と織姫は思う。






(…束縛が、心地良い)










ウルキオラの嫉妬
ウルキオラの反撃
ウルキオラの束縛




ダメだと分かってはいるが、嬉しいと思ってしまう。素直な一面など普段見せない彼だから、今のようにたまに見せる真剣な瞳と甘い言葉に、今にも身体は発火しそうなほど火照っている。


そしてついには、こう、思ってしまうのだ。





(…ミニスカート、もっと履こうかな)







履いてきたら、彼は不機嫌になる。
不機嫌な彼は得意じゃない。
でも嫉妬の意である不機嫌なら、この上なく嬉しい。
もう少しこの気分を味わっていたいけれど、彼の目はあたしを捉えて離さない。一体、どうしたら…。







(彼への欲望は)
(留まることを知らない)



(彼女への束縛は)
(いくらやっても足りない)



















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鼠様、ありがとうございました!
相互記念小説を頂けるなんて嬉し過ぎて涙が・・・・・・・・笑

嫉妬して暴走しちゃうウルはあたしも大好物なので、ニヤニヤしながら読ませて頂きました。姫かわいいですvvvv

今後ともウル織を愛でていきましょう!!笑
本当にありがとうございました!!!!!





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