3.5

リゾット・ネエロがメタリカを発動して与えられた暗殺チームはポルポプロデュースの元、最初のメンバーを迎えようとしていた。ポルポは満足気に「こいつは役に立つ」とリゾットにモノクロの顔写真を見せる。しかしそのメンバーの写真を見てリゾットは少なからず動揺をした。その写真に映っていたのは見るからに子供だったからだ。
確かに若くしてギャングになる者は少なくない、が、しかし、その子供はあまりにも子供すぎた。目の前にしてリゾットはそれを改めて実感する。自分の腰元よりも少し低い背、太陽の下に晒された手も黒いぴったりとしたパンツを履いた足も細すぎるし、小さい。広場で迎えを待つその姿は迷子の子供そのものであったし、アパートの部屋に入れたところで部屋の広さは大して変わらない。
リゾットの目には、ナマエという子供は歪に見えた。呼吸音を完璧に消して隅に立つ姿は幽霊と言われても納得してしまうほどに存在が無く、そっと腰掛けたソファが重さに沈むことも無い。ギャングといえど子供だ、とクチーナで少し悩んだ末に入れたカフェラテははちみつを入れて甘くしてみたが、ナマエは終ぞ口をつけることはなかった。

一言も話さず、リゾットの問いに頷きか首を横に振るかで答えるナマエとの意思疎通は至って簡単だったが、それは意思疎通というより確認といった方が正しいようだった。ナマエは一番初めに話したことを律儀に守り、朝は8時頃に来て夜の7時頃に帰っていく。仕事があろうと無かろうとだ。アジトにいる間彼女は銃の手入れかナイフを磨くかただ空中を見つめるかのどれかを行っているだけだ。その中でも当然空中をただ見つめじっとしていることが圧倒的に多かった。猫のようだ、とも思うが、彼女は猫のように自分を主張しない。気ままに動くことも食事を取ることも無かった。そう、食事さえ取らないのだ。昼食を取るかリゾットは聞いても、ナマエが頷くことは無かった。
そうして三日後、リゾットがヘッドハンティングしていた二人のメンバーが加入した。プロシュートとソルベという男たちは、やはり二人ともナマエに驚いた。しかしソルベはナマエの名前を聞いて少し納得をしていた。聞けば、ソルベはパッショーネに元より属していたが、ナマエはパッショーネの一部では有名らしい。ガスパーレ・カファロ、という元幹部の犬として。

「あんなちっちぇのが犬? ……まさかそっちの趣味か?」
「違え、はずだ。ナマエはカファロに拾われた犬でカファロの命令ならなんでも聞くっつー話だけどよ、詳細は聞いたことねーな」
「どういう事だ?」
「よくわかんねーけど、暗殺のプロではあるんじゃねーか?なんせカファロが死んだ後唯一の生き残りだしな。あ、でも気をつけておいた方がいい、ナマエは機嫌を損ねると殺しちまうらしいからな」

ま、ギャングなんてそんなもんだけどよ。少しの同情を含んだ瞳をしたソルベの情報にプロシュートは胸糞悪そうに舌打ちをし、リゾットは犬と聞き少し納得した。確かに、あの大人しい様子は犬だろう。しっかりと管理され躾られた狗だ。


それから2日後、ボスから初めての仕事が来た。傘下のチームがクーデターを企んでいるため皆始末しろ、という内容にプロシュートは鼻で笑いさっさと済ませるぞ、と声を上げた。人数が人数な分に手始めにと全員で向かう。暗い夜道の先の建物に手分けして入り込み、各々が力を使い遂行していく。メタリカを使い早々に終わらせたリゾットはナマエの様子を見た。
彼女は小さなピエロと半身のように並び、しかし己の手で的確に相手の喉笛を掻っ切る。懐に飛び込む姿は猫のようだったが、死体に向かい手を合わせる姿は人間に見えた。

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