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翌日、時計もないので時間の感覚がわからないまま、日の光が眩しいと感じた頃に家を出た。大して賑わってもいないしどこか殺伐とした市場に行くと時計は7時を差していて、かなり早いなあと思いながら買った硬いパンをもそもそと食べた。硬いと沢山噛んでお腹いっぱいになるのだ。私は基本このパンを食べて生活している。要はお金の感覚がよくわからないのだ。値段を言われてもいくらかわからないから、そのとき持っているコインを全て見せてとってもらう。いかつい顔のおじさんは丁寧に何も言わずにとっていくので特に覚えることもなかった。今まで食事はほとんどボルサリーノのおじさんについて行き出されたものを食べていたから、感覚が麻痺していたのだ。これからはちょっとずつ慣れなきゃいけない。
硬いパンを食べ終わりしばらくその場で日光浴よろしくじっとして時間が過ぎるのを待ってから、私は昨日と同じ場所へ向かった。玄関口に、知らない女性がいたが、彼女は私を知っているようで「ボンジョルノ、ナマエ」とサラリと声をかけてきた。小さくボンジョルノ、と返すと、彼女はにこりと笑い頷いて私を車に乗せた。
外を見ながら無言でドライブの行先は大きな建物で、そこで私は見たこともないくらい大きな男の人と対面させられた。大きな、というか、簡単に言ってデブだ。内臓潰れてるんじゃないかと思うくらいのデブ。見ていて怖いくらいのデブ。しかもそのデブは沢山話しているがずっと食べ続けており、私の意識はそちらへ向いていたためほとんど話を聞いていなかった。食べ過ぎだろう。そりゃデブにもなる。見てるだけで吐き気がするほど食べるデブから少し目を逸らして少し、「わかったか!?」と言われててきとうに「Si」と返す。次の瞬間、私の身体に大きな衝撃が来た。体全てが押し潰されるような感覚だった。うわ、なんだこれ、と混乱して太ももに差してあるナイフに手を掛けたとき、ハッとした。私の脳内に不思議な感覚が怒涛に流れてくる。そして私の視界には黒い変な帽子を被った謎の物体がいるし、隣には寄り添うように子供のピエロがいた。触られている感覚もある。なんだ、なんだこれ、と混乱した。思わずナイフをそのピエロに向かって振りかぶるが、私のナイフはピエロを通り過ぎ床へ落ちた。その姿を見てデブが大笑いする。食べかすが飛び散るのをピエロが嫌そうに見た。

「それがお前のスタンドだ。どんな能力だね?」
「ス、スタンド……」

私の中にじんわりと馴染み溶けていく。まるで最初からそれが当たり前のように、私にピエロの見ている世界が見えた。二重に重なる目に違和感もなく対応出来るのだ。そしてピエロは私の脳内での指示通りに動きだす。

「ほお、孤立型か。使い道はありそうだ、いいだろう」

デブはどこか不満そうな顔をしながらもスタンドを容易には出してはいけないことや、能力は有効に使うことなど説明をした後、私を部屋から追い出した。誰もいなかったので勝手に玄関から外に出ると、先ほどの女性がいた。女性の隣にはネズミのような姿のふよふよしたものが浮いており、女性はニコニコと笑って私のことを褒めちぎる。しかしその瞳の奥には嘲笑があった。私が何をしたというのだ。

それから数日、私は何も指示がないまま一応以前通っていた職場のような場所に行き何もしないまま帰る日々を過ごしている中でピエロの可能性に気づいた。このピエロ、ただ私と感覚を共有するだけではなかった。あのデブが食べていたクッキーを思い出したとき、ピエロは小さな手からふわりと魔法のように同じものを出したのだ。差し出されて口に含むと、それはしっかりとクッキーの味がした。その他にもパンだって毛布だって服だって出てきたのだ。服はしっかりと着ることが出来たし毛布も暖かく、パンだって確かに味がして腹に溜まった。これはすごい、と1人寂しい部屋で感動した。したが、使うものがあるかと言われると別で、それ以降あまりピエロをそういった用途で出すことも無かった。だって、今更何を言うかと思われるかもしれないが、ただより怖いものはないのだ。色々実験をし、ピエロは無機物でも有機物でも出せることがわかった時、私はこのピエロに無限という名前をつけた。しかしただ無限というのもつまらないのでゲンさんと呼ぶことにした。私の大切なスタンドである。

以前の職場に通い続けて大体1週間頃、知らない男が私の元に来た。曰く仕事だとかで、夜中に病院へ向かう。こっそりと指定された病室に入り寝ている老人の息の根を止めた。ほっといても死にそうな老人をわざわざ殺す理由がよくわからないが、そもそもこんな子供を人殺しに使うギャングを理解しようというのも無理な話だ。ついでにまんまと利用されて人殺しになっている私も理解されない対象だろう。
死んだことを確認してさあ帰ろう、というとき、唐突に後ろから「何をしている!」という男の声が聞こえた。反射的にナイフを投擲し男の頸動脈をたたっ斬る。しかし男は気色悪い見た目でにやりと笑い、倒れるがその後からぶわりと変な姿が現れる。

「……スタンド」

男は傷口に手を当てずりずりと逃げようとするが、隙に銃弾を打ち込み手足を封じる。スタンドの頭や肩からは変な汽が出ており、だんだんの私の皮膚が痛みを告げ腐っていく。どう見てもあの汽が原因のため、ゲンさんを出してスタンドごとセメントで固めた。その間に男の首を跳ねて心臓を仕留める。と、次の瞬間。床がぐにゃりと動いた。ハマりそうになりゲンさんで足場を作り、空中に移動する。廊下から、これまた気色悪い見た目の奴が出てきた。床はぐにゃぐにゃと姿を変え、まるで液体のようになっていく。これもスタンドか。目掛けてナイフを投げ銃を撃つのを繰り返すがどれもぐにゃりと消え、逆に飛んでくる始末。壁を作り防ぐがそれは溶けていき、スッと手が伸びてくるのを避けて移動する。見たところ触れたところが変わるらしい。それならば、といくつもの壁を細かく出してどんどん溶かせる。気色悪いのは私目掛けてグイグイと来るが、全てを交わして背後から”先程の男”がその首を跳ね落とした。どさりと落ちた身体と転がっていく首の音が止まれば、部屋はシンと静まり返った。液化した床も作り出した壁も全て無かったことのように消える。しかし、私の皮膚はところどころ腐り黒くなって落ちていき骨が見えた。グロい。うわ、と空中にいるままにゲンさんを呼ぶ。ゲンさんはそっと私の皮膚に手を当てると、みるみるうちに私の皮膚は元通りになった。すごい。皮膚細胞さえ作り出せるのだ、本当に無限。スタンド戦闘の影響でボロボロになってしまった老人の遺体に小さく謝ると、私は何事も無かったかのようにゲンさんを仕舞い部屋を出た。



「なあ、おめーすげえな!俺言われて監視してたんだけどよォ、なんつーか、魔法みてえでよォ、感心しちまったよ!名前はなんつーんだ?まだねーのか?なら俺がつけてやるよ!そうだな…ンー、マジコ、いやあダセェな、ンッンー、そうだ、クレアツィオーネ・インフィニータなんてどォだ!?いい名前じゃあねーか、ピエロだしよォ!……ま、俺には負けるんだけどナァ!!」

死人に口なし、とは言うがこの男ならべらべらと話し出しそうだ。車内で既に生き途絶えた男の死体を降ろし、ゲンさんで男と同じ姿のダミー人間を作り出し運転させる。運転はしたことないが、まあゲンさんに任せよう。自我はあるみたいだし。
車は家の近くで止めさせ、またそのまま病院へ戻らせる。同じ場所へ放置しておけば終わりだ、回収してくれるだろう。私はそのままシャワーを浴びまた血の匂いが染みついたTシャツを洗う。繊維まで入り込んでないといいんだけど。
そういえばあの男、ゲンさんのことをクレアツィオーネインフィニータと言っていたような気がする。このくらいの単語ならわかるが、無限の創造というのはまた洒落た名前だ。無限をつけたというところでちょっと思考回路が似ている気もして嫌だが、確かにいい名前だと思う。しかし私にはゲンさんで十分だ。聞かれたときに覚えていたらこの名前を名乗ろう、と決めた。

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