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「どうしてあなたがここに、」

戸惑うぶちゃらてぃに、私も似たような表情を返しているだろう。彼は私の答えを望んでいないようで、すぐに首を振ってから「見ましたか」と続けた。頷くと、諦めたようなため息が空気に溶けていく。しばし何も言わない膠着時間が続く。サイレンの音が近づいて、通りには人々の声がざわめき出す。このまま待っているわけにはいかないが、ぶちゃらてぃはまだ迷っているらしい。急かすようにゲンさんがぶちゃらてぃの肩をとんとん叩くが、ぶちゃらてぃは気にしていない、いや、気づいていないらしい。「ナマエさん、」呼ばれただけの名前に頷いてやる。無言でいるよりはましだろうと思ったが、口に出してないのだから無言に変わりなかった。
ぶちゃらてぃの瞳は揺れていた。潤んでいる、というよりは膜だろうか。彼と私の間には確かな膜が張られていた。

「ゲンさんッ!」

──それに気づいた瞬間、私はぶちゃらてぃの手を引き駆け出していた。



ぶちゃらてぃの縺れる足を無理やり走らせて路地の闇を駆け抜ける。膜は一度私が引っ張った瞬間割れたようにぶちゃらてぃを離したが、じわじわと後を追って来ているのがわかる。ゲンさんが現れているのはだいぶ前からだから、向こうには私がスタンド持ちだと当然バレている。しかしゲンさんがどんな能力持ちかはまだ把握されていないだろう。ならばそこを突くしかない。ぶちゃらてぃのスタンドはバレているんだろうか。向こうにバレていても、私がよく知らないからどちらかというと不利だ。この土地をよく知っているわけでもないし、私はスタンドの近接戦闘に慣れていない。そしてぶちゃらてぃは混乱しているし、私に比べれば足が遅い。
とにかく角を曲がり、人の少ない路地を通り続ける。膜は壁伝いに動いているようで、広い場所に出れば勝機はあるかもしれないがこの近辺にそんな場所はない。それに、今大通りへ出てしまえば先程の爆発もあり怪しく思われそうだ、実際ぶちゃらてぃは容疑者だし。そう考えてまた曲がろうとした寸前、目の前に膜が現れた。即座に止まるが、背後のぶちゃらてぃは止まれなかったらしい。私の2倍ほどはある体格に押されて膜へと突っ込んだ。ぶにゅりと萎みかけの水風船のような感触に、身体が丸ごと呑まれていく。目の前が淡くぼやけて、だんだんと暗闇に閉ざされる。懐から出したナイフに手応えはなく、私の手は何者かに蹴られてナイフを手放した。

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