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やりにくくなったな、しばらく夜間にしか動けない。新聞に目を通したリーダーがコーヒーを片手に徹夜明けのぼさぼさした姿でそう零した。うんざりとした様子が珍しく瞬きをした。バサリと机に投げられた新聞に目を通した、こちらもぼさぼさ姿のメローネがあちゃあとわざとらしく額に手を当てる。

「表通りでデカい事件起こしすぎ。これ、パッショーネの奴がやったのか?」
「このあたりの管轄はペリーコロだ」
「Ah, si? Cretino.」

ペリーコロ、という名前は聞いたことがあるような無いような。ゲンさんが気になるようでメローネの後ろから新聞を覗いたが、ゲンさんの目を通してみても新聞に何が書いてあるのかわからない。ゲンさんが首を傾げると、メローネは気づいたようで「死体をバラバラにした上で放火したんだってよ。ちゃんと燃やせばいいのに燃えきらずにバレてるんじゃあな」と鼻で笑いながら教えてくれた。見せしめじゃないのかと思ったが、どうやら違うらしい。

「ペリーコロは派手を嫌うんだ、よほどの見せしめ以外は証拠も完璧に残さないし、こんなギャングになりたての若僧みたいなやり方絶対ない」
「勝手に行えば2度はないはずだが……妙だな」
「どうせ出世に焦るバカがやったんじゃあねえの?」

心底どうでも良さそうに新聞を閉じたメローネは、ぼさぼさの頭を掻きながら仮眠室のベッドへ向かった。もしここにギアッチョがいたらブチ切れているだろうなと思いながらその背を見送る。そんな私に目線を合わせるようにリーダーはしゃがんだ。元々彫りの深い顔立ちが、隈のせいで目元が更に落ちくぼんでいる。「すまないが、ナマエもなるべく表立って行動しないようにしてくれ」、そう残すとリーダーはため息を吐きながらシャワールームへ向かった。



厄介なことに、今回私が担当する案件は件のペリーコロの管轄地区での仕事だった。パートナーはイルーゾォ、私たちは隠密向きではあるものの、逃げ足が早い訳では無い。昼間は続いた事件のせいで警察の見張りが増えるんだそうだ。だからといって夜に動くのも見張りが増えたのなら面倒だろうけど、と言いたいところだが、この街の腐敗した警察は賄賂さえあれば構わないらしい。派手にやるな、その意味を込めた人選だったのだろう。
AM2:00、午前2時、日本で所謂丑三つ時の時間帯。裏路地に潜みサクッと殺して死体はイルーゾォが回収し証拠隠滅も終了。その帰り道のことだった。イルーゾォから鏡を通るかと聞かれたが、少し人の気配が気になって断った。人の気配が気になるのは、私というよりゲンさんのようだったが、私はゲンさんに引っ張られるまま路地から路地へと移る。ツン、と鼻につく匂いがした。ガスのような、もっと薬品が混じったような匂い。何かがおかしい、そう思って近くの建物に身を寄せたときだった。ドンッとまるで花火のような音がして、地面が揺れる。建物と電柱を交互に踏んで駆け上がり屋根の上へ出ると、隣の通りの路地から煙が立ち上り倒壊する音が辺りに響き渡った。仕事現場の近くとは物騒な、狙われたかと警戒心が強くなる。そのうち人が来るから逃げた方がいいだろう。しかし、ゲンさんが慌てたようにどこかへ行ってしまう。もし勝手な行動をしたゲンさんをスタンド持ちに見られてしまうと濡れ衣を着せられるかもしれない。面倒だなと思いつつ、ゲンさんを追う。
倒壊した建物の目の前にゲンさんはいた。暗いジーンズにフードを被った人の袖を引いている。人と接触だと、何をしてるんだか。私はゲンさんを信頼しているが、これはよろしくない。しかしゲンさんは私がどうしようと思ったって勝手に出てきて気づけばいなくなる存在だ。サイレンが聞こえてくる。仕方がないから、ゲンさんに袖を引っ張られたまま立ち竦んでいる人の手を引っ張り路地裏へと引きずり込んだ。しかし、人の声が聞こえてきはじめてしまった。フードの人は足が遅いようだし、今下手に出れば騒ぎに乗ることになる。さてどうしようかと悩んでいると、後ろにいたフードの人がフードをとった。

「ナマエ、さん」
「……──ぶちゃらてぃ?」

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