27

午後になれば雨は多少軽くなっていた。アジトを出る際に無理やり着替えさせられた上半身はプロシュートの替えのシャツで、余りまくりの袖を何回も折り返していて不格好だが仕方がない。ゲンさんで服も出せるからいいのだけれど、リーダーは「いいから着ていけ」と私に着せた。押し付けられたものだが、好意を袖にするのも申し訳ないとも思う。大人しくシャツを身につけて、濡れたままの下半身の服は我慢することにした。
再度傘を差してデブの事務所に行く。受付のお姉さんが慌ててタオルをくれた。てるてる坊主のように頭からタオルを被りデブの元に行くと、デブは少し苛立っていて一発殴られてしまったが、すぐに機嫌良さそうにブフゥーと息を吐いて笑った。目が肉に埋もれていて見えない。

「よし、よし、いい子だナマエ……私はお前を待っていた……」

よくわからないが、わざわざ暖炉に火を炊いてくれたのはありがたい。火に背中を向けて、タオルで髪を拭きつつ話を聞く。今日中の仕事らしい。しかも誰かと組んで。相手はデブが部下にしようと考えている人で、殺しが下手くそなんだとか。下手くそも何もないだろうが、頷いておいた。処理しにくい方法で殺すとかだろうか。メローネのような人がそう何人もいるとは思えないが、ギャングだからそういう質の人間が集まりやすいのかもしれない。

「入れ」
「──失礼します」

律儀にノックを三回してから入室してきた相手に驚いた。ゲンさんがふわりと出てきて、バスタオルの下に潜り込んでくる。

「お前が覚えているかは知らないが、紹介しておこう。ブチャラティだ」
「……ッ、ブローノ、ブチャラティです」

おかっぱ頭は以前のパサついた様子とは違い、潤っているようだった。顔色は悪いが肉付きは悪くない。唇を噛んだ表情は骨格が薄く見え、前に会ったときより成長してるとはっきり見えた。私は頷いた。

「ぶちゃらてぃ、おぼえてる」
「ほう」

ハッとブチャラティの目が見開かれて、充血した唇が解放されていた。デブは肉に目が埋もれる笑い方をして「そうか、ナマエもブチャラティを気に入っていたようだ」と頷く。たゆんたゆんと揺れる脂肪につい目がいったが、気持ち悪くてすぐに逸らした。立ち上がり、タオルを椅子にかけて渡された書類を前のようにぶちゃらてぃに投げる。経験しているからか、ぶちゃらてぃはしっかりと受け取りすぐに目を通しはじめた。
情報を整理しているらしいぶちゃらてぃがついてきているのを確認しつつ事務所を出る。出入口の前に置いてあった車は何かと受付のお姉さんに聞くと、知らないが数刻前に停められたままだと答えが来た。雨は変わらず降っていたし、不明の車があるのは問題だろう。ご丁寧にキーまでつけられている。罠だろうなと思いつつ、ぶちゃらてぃに運転させることにして私は後部座席に座った。車内に気配は特にない。爆弾が仕掛けられているということもなさそう。しかし座席の下には盗聴器があった。巧妙なものだが、複数の視界を手に入れた私に見つけるのは容易いことだ。ゲンさんに頼んでそっと社外へ放り投げてもらった。多分、これは敵の監視というより身内だろう。私か、あるいはぶちゃらてぃか。どっちもかもしれない。

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