20

今日も今日とて仕事がないまま一日が終わり、アジトのいつもの場所でぼーっと過ごして帰宅をしたら何やらゴソゴソやってるギアッチョがいた。何してるんだろうと遠目に見ながら、ゲンさんが注いでくれたオレンジジュースを口にする。ギアッチョいつも甘いの買ってくるなあ。最近ではゲンさんだけでなく私も一緒に飲むようになったからか、消費量が早いオレンジジュースだけれど毎回補充してあるから不思議だ。そろそろ勝手に飲むなって怒られる予感はしている。はじめてのおつかいに行くべきだろうか。ゲンさんに頼んで出してもらった方が早いが、ゲンさんに出してもらったものはゲンさんが消してしまうと無くなってしまう。食べ物も飲み物も、咀嚼したり飲んだりしたつもりで感覚を紛らわせているだけで、実際はなんの効果もないことに最近ちゃんと気がついた。やっぱりゲンさんだけに頼っていたらダメってことだ。世の中そう上手くいかない。
オレンジジュースを一杯飲み終え、コップをピカピカに洗い終えたところで、ゴソゴソやっていた何かを終えたらしいギアッチョがやってきた。ひょい、と脇の下に手を入れられ持ち上げられる。所謂抱っこ。私が泣いた日から、ギアッチョはちょくちょくこうして私を抱き上げる。こちらのほうがリーチのせいで足の遅い私を待つよりも早いらしい。オレンジジュースに満足したのか、ゲンさんは姿を消した。

「……外出るの?」
「大人しくしてろ」

もう夜だが、今から外出らしい。ギアッチョは私をどこからか盗んだであろう車の助手席に置き、自分は運転席に座った。
どこに行くんだろう。代わり映えのない外を見つつ、荒い運転にため息をつきつつ乗ること数十分。車はアパートの前で止まり、ギアッチョにくい、と顎で降りろと指示され、車から降りる。閑静な住宅街といったところだろうか。来たことがない場所だ。きょろきょろと周りを見回して様子を見る。

「ついて来い」

ギアッチョはアパートの中に入っていく。何しに行くんだろう、全く話が見えない。少し暗い足元を抜き足差し足と音を立てずに後を追いかけ、階段を上がりきると一番奥の部屋の扉が小さく空いており、ギアッチョはそこに半身を滑り込ませて何かを話していた。こちらを見ずに、指先でくいっとまた呼ばれ近づく。

「──だからって──ギアッチョおめー──」
「るせえなお前が言ったんだろうが!」
「そりゃそうだけどよォ……」

しょうがねェなあ。聞き覚えのあるその声に、目を見開いた。そしてギアッチョの足によって乱暴に開けられた扉の先には、

「マジでいるし……あー、Buona sera ナマエ」
「……ボナセーラ、ホルマジオ」

部屋着は普通の格好をしているホルマジオがいた。なるほど、あれは仕事服なのか。
ホルマジオはため息を吐き、まあ上がれよと言う。ギアッチョはそれに首を振った。

「俺はもう行く、プロシュート待たせてんだ」
「まぁた急な……」

呆れたように言うホルマジオに首を傾げた。ギアッチョを見て更に角度が深まる。俺はもう行く、プロシュートを待たせてる、とは仕事か、もしくは他の何かか、それはどうでもいいが何故私はホルマジオの、おそらく家に連れてこられたんだ……?その疑問を解消するべく、ギアッチョをしっかりと見上げる。と、ギアッチョはまた私を抱き上げた。目線が合う。

「いいか、俺は仕事で数日泊まる、お前はホルマジオの家だ。いいな」

……いいな、と言われても。何がいいんだ? なんで私がホルマジオのところに泊まるの?頷かず、眉間に皺を寄せた私にギアッチョは舌打ちをし、そのまま私を抱いた腕を前方に出す。とすりと背中が何かに当たり、膝裏からぐいっと何かに支えられ、ギアッチョの腕が離れていく。スパイシーなコロンの匂いに包まれた。ギアッチョからホルマジオにパスされた、というわけか。だから、なんで。

「お前これどうやって飼うんだよ」
「飯は出しゃ食うし、出さなくても勝手になんか食ってる。ほっときゃ自分の場所も勝手に作んだろ。仕事の後はシャワー浴びさせろ」
「…………マジもんのペットか?」
「そのつもりで預かってろ。手ェ出すんじゃあねえぞゴラ」
「冗談でもやめろ!」

ギアッチョは下手くそに私の頭をガシガシと撫でてから、ばたん!と大きな音を立てて扉を足で閉じた。私は呆然と見送るしかない。な、なんなんだ……? ブオオオと車が去っていく音でハッとした。顔をそのまま上に向けると、頬を引き攣らせたホルマジオが私を見ていた。

「……お前、マジでいいのか?」

なにも良くないんだが。さっぱりわからない。とりあえず下ろしてほしい。

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