16.5

リゾットが、パッショーネに所属する他の部から回ってきた情報依頼の報告書を数枚仕上げ、イルーゾォとギアッチョから上がってきた出張任務の報告書に目を通している間に、日付は変わり街は闇に囚われていた。いつまでもアジトで酒盛りをしているソルベとジェラート、ホルマジオと特に酒を飲んでいるわけではないが全裸で床に寝転んでいるメローネに声をかけ就寝しようとしたとき、アジトのドアがガツガツと蹴られきしんだ音を立てる。

「おいおい、こんな夜中に誰だァ?躾がなってねえバンビーノだぜえ」
「酒に酔ったプロシュートが来たか?」
「あいつは今夜マンマのところだろ」
「うーんこの蹴り方はギアッチョだ!ギアッチョに30リラ!」

メローネの発言に気持ちが悪い奴だと酔っ払い共がゲラゲラ下品な笑い声をあげ、それを横目にリゾットはドアを開ける。すると、メローネの勘は当たっており、夜中だと言うのにギアッチョが、アジトのドアを今にも蹴破らん体勢で立っていた。ただ、ギアッチョだけではなかったが。メローネの30リラはお預けとなる。

「こんな夜中にどうしたギアッチョ、仕事が終わったからと今日はすぐに帰ったんじゃ──」
「死んじまう!」
「は?」

どうすりゃいいのかわからねえんだリーダー!そう声を上げ、ギアッチョは腕の中にいる小さな子供──ナマエを、しっかりと抱きしめ慌てた様子でリゾットに迫る。どうしてギアッチョがナマエを抱えているんだという疑問は、ナマエの様子で後回しにすることが決定した。
ナマエに意識はなく、少し白目を向き顔色は死人の如く土気色を帯びていた。気道が狭まっており喉からはひゅーひゅーと細い音が聞こえ、心拍数は異常に速い。首元を触れば高熱で、おそらく脂汗をかいている。「ギアッチョ、そんなに冷やしてはダメだ」とにかく熱を下げようと思ったのだろう、ホワイトアルバムを使い手のひらに冷気を帯びナマエを冷やすギアッチョにストップをかけ、リゾットは慎重にナマエを受け取る。小さく軽い身体が、更に薄っぺらく感じた。ナマエのこの様子はただの病か、それとも毒か。しかし毒ならばナマエが対処出来ないはずがない、はずだ。
リゾットはナマエ本人から能力をよく聞いている訳では無いが、ナマエのスタンドは解毒も可能だと過去ポルポから受け取った連絡事項に記載してあった。だとすれば消去法で病となるが、今のナマエを見る限り素人目からしても単なる熱だとは思えない。医者に連れて行った方がいいのだろうが、しかし今の時間帯門戸を開いてくれる医者はよほどの善人だろう、そしてそんな善人はここらにはいない。マフィア関連の医師に頼めば早いが、生憎暗殺者の危険を周知させる訳にもいかない。「おいリーダー!このままだとそいつ、」「わかっている」わかっている、が。
リゾットは思考を切りかえ、まずはとアジトの一室、元々は倉庫にでも使おうと空き部屋にしておいたがいつの間にかメンバーたちが物を持ち込み、アジト内ではキッチンをぬいてすっかり一番生活味溢れる場所となった部屋にナマエを連れ、ベッドに寝かせる。ソルベが雑貨のおまけで貰ったけれどいらないというカラフルな花柄のシーツも今は気にならず、こんな状況でなければナマエがバンビーナらしく見えると冗談のひとつも言えるが、残念ながらそんなことをしている暇はない。ギアッチョに居間にいる酔っ払い共を連れてこいと言うと、リゾットは慎重にナマエの体内の血液を操作するためメタリカを発動させた。


おかしい、毒の反応がない。リゾットはメタリカをナマエの体内に巡らせるが、ナマエの血液中に不審な毒素は見当たらず、これ以上はナマエの身体への負荷が多いために手を離す。ナマエの様子は変わらず苦し気に微かな呼吸をしており、リゾットは静かにその寝顔を見つめる。明日の朝一番に医者に連れて行くとしても、果たしてこのまま朝までナマエの身体が持つのだろうか。酸素ボンベは常備していない。

「おいおいどうしたんだよ、ギアッチョがうるせえぞ」
「死んじまうって一体誰が死ぬんだ?」
「まさか出張先でヘマこいたんじゃあねえだろう…な……ナマエ?」

ホルマジオを先頭に、ギアッチョの様子で酔いが醒めたらしい奴らが部屋に入ってくる。メローネが呆然と「ナマエって死ぬの?」と言った。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -