15

心なしかゲンさんが寂しそうに部屋のあっちこっちへふわふわと浮遊している。
理由は簡単だ、ぶちゃらてぃが解雇されてしまった。いいや、この場合解雇されたのは私の方だ。今日付でぶちゃらてぃの教育係は別の人になり、私はチームへ戻ることになった。元々ぶちゃらてぃがいるからと自主的にアジトへ行っていなかったが、明日からはまたアジトで仕事を待つ日々が待っている。
ゲンさんは寂しそうだ。私も寂しいと思う。ぶちゃらてぃがいる間は、何故か毎日あのデブから仕事の依頼があった。お陰で報酬が貰えて懐も温かった、というのにアジトへ戻ってしまってはまた苦しい生活になる。ギアッチョはまだ帰ってこない。請求書はライフラインのようで、水道が動かなくなってしまった。もうすぐ電気もダメになると思う。以前の家は、おじさんが全部やってくれていたから私は公共料金も払ったことがない。文字も読めないから、どれがどれだかわからない。近隣にコンビニもない。どれもこれも、ギアッチョが帰ってこないせいだ。
幾ど八つ当たりな感情を抱いて、その日は寝た。


翌日のことだった。いつも通り起きたはずが、身体が上手く動かなかった。少し関節を動かすだけでギシギシとして痛む。身体にあるたくさんの傷痕が全て燃えるように熱くて痛かった。ゆらゆらと目の前をゲンさんが飛び、私の隣にひっつく。感覚はなく、ただぼんやりとそこにいた。ゲンさんが出ているのに、視界もひとつだけ、それもぼやけていてよくわからない。
けほ、とただ咳が出ただけで喉奥で炭を焼いているような、焼かれた炭の尖った破片が至る所に刺さったような、まるで拷問を受けている感覚だった。ほんの少し動くだけで痛く、熱く、ダラダラと汗が出るがそれにも痛覚は敏感に反応した。
スタンド攻撃かもしれない。少し前に鼠のスタンドがいた、あれは異空間幻覚型で見つけるのは面倒だった。そうだ、ぶちゃらてぃがあれに襲われてしまって、私がもっと早く対処していれば、ぶちゃらてぃは今後とも案内役になってくれていたのかもしれない。そんなこと、後の祭りだ。取り留めもないことをつらつらと考えてしまう自分に嫌気がさした。ギアッチョは帰ってこない、もうこの家にはきっと帰ってこない。私は一体どうすればいいんだろう。とりあえず、また住処が見つかるまでは公園にいよう。私の年齢ではまだダメなのかもしれないから、それまでは公園にいればいい。そうだ、それがいいや。なんて名案なんだ。
ギシギシと痛む身体を持ち上げ、立ち上がるとなんとよろめき、ばたんと床に倒れてしまった。すごい、これはまるでいつか初めて毒を盛られたときのようだ。この感覚が懐かしい、おじさんは痙攣する私に声をかけてくれたんだ。なんて言っていたっけ、もう覚えていない。おじさんは、もういないから。
這うようにドアへ行けば、床との摩擦で皮膚が燃えた。そう思って見たら青白い肌はまっさらで、感じる熱さに神経毒を飲んた覚えはないけれど、知らぬ間に摂取していたのかもと予想がついた。まあ、そのうち抜ける、ゲンさんもいるし。ね、と同意を求めるようにゲンさんを探したが、ゲンさんはいつの間にか消えていて、私はゲンさんを探しに公園へ行くことにした。

よろよろと足元がおぼつかず、何度も転びながら、やっと公園へついた。芝生に倒れると、全身がじんじんと痛み今にも爆発しそうだった。痛いなあ、こんな痛み、なかなか無かった。無数の針が私の身体に刺さり、ぐちゃぐちゃと動いているようだった。スプリンクラーの水とも、私の汗ともわからない水滴が草と服を濡らす。ゲンさんはまだいない。
そのうち、呼吸が出来なくなった。かひゅ、かひゅっと無駄な音が鳴り、目の前が暗くなる。ううん、早く解毒薬が欲しいのに、ゲンさんどこに行っちゃったんだろう。闇の中そう思っていたら、ぴとりと冷たい感触が額にあたって、他の場所は当たっても痛むのにそこだけは気持ちがいいなあと思った。

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